救う者と救われるもの 第二十一話

(ジェイドは何を考えている・・・)
その耳打ちをしっかりと確認していたジューダスは窓際の隣に座るジェイドを見るでもなく、表情を変えず理由を考えている。席の配置は進路方向から見て右側の前列にディスト・モース、その後ろにジューダス達、左側の前列にはファブレ公爵と・・・神妙な顔つきのアッシュという物だ。
(アッシュは・・・まぁわからんでもないが、それが理由ではないだろうな)
そして最後にアッシュ・・・ジューダスはアッシュがこのメンツについてきた理由を聞いてはいたが、その裏があることを確信していた。



・・・アッシュが付いて来た理由、それはアッシュが言うにはバチカルにいる公爵夫人と公爵の三人で話し合いをしたいということからだった。その公爵との会話にルークはなら自らもと隠せない喜色を浮かばせ付いていきたいと言ったのだが、そこはアッシュが「俺はまず父上と腹を割って話し合いをしたい、だからお前は出来れば来ないでくれ・・・」と事実上初になる直のルークへの切なる態度を取った為にルークはユリアシティでティア達と待機という事になった。

しかしその切に、という態度がアッシュの不自然さをジューダスは感じ取った。話し合う時間というのは何もアルビオールの中でなくとも可能ではあるし、言葉の雰囲気からアルビオールの移動中でなくてはならないという何か考えがあるのではないのかと・・・






そんな不自然さを追求していくジューダス。
「・・・ジューダス、少しよろしいですか?」
その思考にふけるジューダスに、前の座席に座っていたディストが覗き込むように首を出して神妙に声をかけてきた。
「・・・なんだ?」
ジューダスはディストの声と態度の改まり方から、重要な事を切り出しているのだと感じディストの話を聞く体勢に入る。
「・・・まずは、お礼を言わせていただきます・・・ありがとうございます」
「・・・別に僕は礼を言われるような事はしてはいない」
確認をもらったディストは首を前に戻し、互いの顔を見合わせる事もないままありがとうと礼を言ってくる。その声に何を伝えたかったのか、内情を察したジューダスがその後に続く言葉が何かがわかるだけに強い口調で返す。
「・・・確かにそう言うと思いました。ですが貴方には感謝してもしきれません、私にネビリム先生を蘇らせるその愚かさを考えさせてくださったのですから・・・」
愚かさ、はっきり出たディストからのその言葉にジェイドはごく自然に自らの顔を抑える。そしてジューダスは話す事に抑えのきかないといった様子のディストの声の沈み方に、止める言葉をかけるような事はしない。
「貴方の言っていた事の意味がユリアシティでよくわかりました・・・あの言葉は実際に体験したものでなければ出るはずがありませんね・・・あのあと私は貴方の記憶とネビリム先生の在りし日の姿を照らし合わせ、ネビリム先生が復活した時の事を考えてみたんです・・・・・・結果は何度イメージしても、ネビリム先生の悲しみ苦しむ顔が浮かぶばかりでした」
・・・声が一段更に落ち、必然的に場の空気も更に緊張感が増していく。本音を話しているというのがあまりにも顕著に現れすぎているだけに、誰も余計な物音一つ立てる事なくじっとして二人の間の会話の邪魔を出来ない。
「そう思ってしまった私はもう・・・ネビリム先生の復活を望めなくなりました。私が求めていた物はネビリム先生が共にまた私達といたような時間を過ごす事です。ですがもうそれもネビリム先生の悲しむ姿があるなら・・・私の望む所ではありません。だから私は貴方に礼を改めて言わせていただきます・・・ありがとうございます、私はもう・・・ネビリム先生を追い掛ける事を止めます」
「・・・そうか」
最後のジューダスにも自らにもどちらにも向けられたと思える宣言に、ジューダスは言葉少なく返す。



元々は好意から来る行き過ぎた暴走、だがその暴走は好意を刺激して振り返る機会があれば収まりをつけることが出来る。ただそれを気付かせるにはあまりにも近しい者であってはかえって逆効果となる、似たような経験をしたものでだけ問題を解決しようとしたなら下手に近いだけに視点を変えた物の見方が難しくなってしまう。

・・・ジューダスは親身に、ディストの視点では考える事も出来なかった物を気付かせる事が出来た。そしてネビリムを想うからこそ一度気付いたならディストはもう一生涯その復活を願う事はないだろう。

・・・一人の人間の思い出という呪縛が断ち切れた、アルビオール内の人員全員そう受け止めるには十分過ぎる瞬間だった。






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