救う者と救われるもの 第二十話

だがその涙が頬を伝い落ちる事はなかった。



「・・・私は今この位置にいる通り、どの国の者でもありません。そして私は全てが終わるまではどこかの地に安住の場を設けようとも思っておりません。その演説の場にはどの国にも属す事なく、成功を願い一人の人間として遠くより見守りたいと思っています」
「・・・そうですか。それでは今ここでと無理強いは出来ませんね」
ジューダスは三人の申し出に即答を避けるように答えを返す。イオンはジューダスの返しにそれは仕方ないとそれ以上の言及はせず、両陛下もジューダスらしい返答に納得したように頷いている。
(・・・そっか。そうだよな。ジューダスはまだ終わっていないって言ってたんだ。けどジューダスの言ってた演説が無事にうまくいったなら・・・そうしたらジューダスはオールドラントに・・・!)
目元に溜まった涙を手で拭い、いつも通りに引き締められたジューダスの横顔を見てルークは改めて最後で最高に重要な舞台の演説を成功に導きたいと考えていた。
成功以外にジューダスの安息は得られないし、なにより本人がそれを固辞する。まだ途中だ、と。






・・・ルークが世界とジューダスの為に動く意識を更に強めている。その意識を向けられているジューダスの内心は・・・複雑としか言いようがなかった。
(どうする・・・?僕は演説が終わり成功を収めたならすぐにローレライの力で消えるはずだった。だがこのままでは・・・)
自らの予定では人知れずローレライの力を借りて時空間に戻り、ひっそりとその生涯を終える予定だった。だが予想に反し両陛下とイオンに招かれるという事態になり、隠れて消える事も演説が終わった時にすぐさま身柄を拘束されるかのように居場所を選ぶ選択をさせられ難しい物となるやもしれないと感じていた。
(そうなれば僕は・・・っ)
自分が今ルークに協力しているのはかつて自分が対峙した神を彷彿とさせる行動を取っていたヴァンを止めたいと思ったから、元々事故で三度目の生を受けたがそれは生の形として望まれる事ではない・・・このままでは自らには不釣り合いな生を享受することになる・・・
ジューダスは自らの業を想い、それだけは阻止せねばと表情には微塵にも出さず思考を張り巡らせて行く・・・






「・・・少しお話は変わりましたがお二人とも、まずは和平に関しての話し合いを致しましょう」
「うむ」
「ああ」
ルーク・ジューダスともに互い思考を深めていく中、イオンは話を先に進める為に和平を結ぶ事を提唱する。別段断る理由も気になる事も無くなった両陛下はその言葉に賛成する。
・・・真剣そのものと言った会合が開かれた。一同はその雰囲気に私語を慎み、厳格たる雰囲気が漂う。









・・・ジューダスは強くあろう、自らの正しいと思える考えを貫こうとしていた。だがその倫理を脅かす存在ルークの為・・・いや、おかげというべきだろう。ルークによって生じた無自覚の生への望みはその頑なな心を、こじ開け揺さ振っている・・・

誰が正しい意見を出せて、間違った意見を出せるなどというのははっきりと答えを出せる者は誰にも言えない。ジューダスの考え方は摂理に基づいて構成している部分が大きいが、ルークの考え方は人の人たる所以である心情で構成されている。どちらも人間の在り方であるし、どちらも必要不可欠の物だ。どっちが絶対正しいかとの答えは誰にも出せないのだから。

だからジューダスの揺れも正しい物であるし、それを責める事は出来ない。それは人間のあるべき姿でもあるのだから。











・・・視点を変えれば正、更に裏側を見れば否。一つの視点だけで正否を問う事は出来ない



だが互いに自らの信じる正を現そうと、必死に望みを叶えんとする



どちらの望みが叶うか、それは世界が変えられたならこそはっきりと答えが出るだろう・・・






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