救う者と救われるもの 第二十話

「・・・それは私がヴァンの作る世界を許す訳にもいけないと感じたから、ルークに協力したいと考えたからに尽きます」
「ですがあそこまで過去を・・・心を明かす必要はなかったはずです」
「・・・私見で申し訳ありませんが、何人かの方々は私の伝えたかった事を理解していただけているかと思います・・・皆様はあの神の作ったドームの世界、どう思われましたか?」
畏まりながらも確固とした意志を持ち話すジューダスは、ドームでの暮らしを引き合いに出す。
「まぁ確かに・・・あの世界が俺達の世界を丸ごとなかった事にして作られたもんなら、簡単にそれを作らせたくはないな。今を生きる俺としては」
「・・・うむ、私も同意見だ。あれはもはや人としての尊厳も何もない、神の家畜に人が成り下がっているだけの神による自己満足の世界だ」
出された話題から意図を確信した両陛下は辛辣な言葉でエルレインの世界を否定する。
「それは・・・僕も許せない、という思いはしますが・・・」
イオンはそんな辛辣な言葉で言えずに口を濁す。断固とした物言いではないのは、意図を掴めていないということ。
「・・・遠回しに言うのは止めろ、ジューダス。お前が私に言いたいのは神の作った世界と私の目指すレプリカ大地の世界、それが状況は違えど同じ物だということだろう?」
「「「「!!」」」」
イオンのまだ理解に少し遠い様子にじれったいと感じたのか、ヴァンが核心を突くような言葉で横入りしてくる。その内容に主に核心に近づけず、ジューダスの記憶に衝撃を受けていた面々の表情が驚きに変わった。
「・・・その通りだ」
更にジューダスがその質問を肯定した事で、意図を掴めていなかった面々の表情に一瞬の戸惑いこそあったものの話を聞き逃すまいという緊迫感が現れる。その他の面々は落ち着きを見せて、じっと静かに二人の間に視線を保たせる。
「お前が作る世界は自分に都合のいい者しかいない、皆言うことを聞くことしか出来ない者ばかりだ。その世界は人が人たる所以を破棄し、自我を奪う。そのような世界を作ったならそう遠くない時で崩壊を迎える、人らしさを無くした人間は何も出来なくなる・・・お前という神がいなくなったなら、この世界はもう終わりだ。導く者がいなくなるのだからな」
「・・・・・・」
核心だというジューダスの弁に皆は黙って聴き入るが、ヴァンは一人力強く目をつぶっている。まるで覚悟を決めたかのような・・・そんな風に捉らえる事も出来る様子だ。
「だからこそ聞く。ヴァン、お前は預言通りの世界を憎み行動を起こしたな。もしレプリカ大地の世界を実現したとして、お前はレプリカの人間達の世界を何十年・何百年も続けられるよう後々の事を考えそうしようと考えていたか?」
・・・その質問は静かに波打つよう、シンク・リグレット・ラルゴ達の表情に陰りを出させた。
「・・・・・・考えてはいなかった」
長い沈黙を経てヴァンが三人の答えも代返するかのよう、嘘をつくに意味のない正直な答えを出す。



それもそうだろう、四人に共通する事項。それは預言依存の世界への復讐だ。レプリカ大地の意味は預言の滅びを無理矢理捩曲げて預言を壊す為の手段、だがその手段を行使した後の結果というビジョンはルークにもジューダスにも感じ取れなかった。

復讐に酔って燃えるだけの四人には後の事を考える余地などはなからなかった、復讐が先に来た想いはそれを昇華することだけを目的として・・・



「そのような世界を作ってなんになる?続きようのない世界を作ってなんになる?はっきりと言えば無駄だ、そのような事。人の歴史を改めようとしているのに、その人の歴史が世紀を跨ぐ事もなく終わる・・・これほど意味のないことはない、それはもはや復讐でも自己満足ですらない。もう一度言うが、無駄だ」
作った物が形を成せず崩れるなら意味がない、復讐を果たしても復讐の過程から生まれた事にそれ以降おざなりにしか関しないというのはその行動に意味は見いだせない。何故ならそれは正しく‘無駄’の一言に尽きるのだから。



ヴァン達の計画と心のズレ、そこを突いていくジューダスの弁は更に加速していく・・・








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