救う者と救われるもの 第二十話

一方ジューダスも寂しそうな瞳を携えたまま、ルークと同じように記憶を明かすと告げた時を思い返していた。






(・・・僕は何をしているんだろうな、あんな事を言ってしまうなどと)
ルークに助けてくれ、と言ったのは自分らしからぬ言動だったと自身が一番理解している。
(・・・僕は残したかったのか?)
深くその時の心理を探って行き、ジューダスは仮定を出す。



もしスタンやカイルが相手だったなら、力強く曇りない言葉でまっすぐジューダスを助けると言うだろう。それはジューダスからすれば止めるべき行動ではないし止められる物でもないので、自然と「勝手にしろ」と許容することが出来た。
だがルークに関しては違う。確かに想いは二人と比べても遜色ないものではあるが、酷く危なくて脆い。自身も精一杯であるのにその根源に人を救いたいと、身の丈以上の想いを持って身を切り裂くように人の痛みを自分の痛みのように感じている。
普段のジューダスであったなら「必要ない、お前は会合の成功とヴァンの説得に集中していればいい」とでも言っていただろう。
(『安心』を残したかったのか、それとも・・・・・・・・・いやそれだけは望んではいない、僕はもう少ししたらこの世界から消えるんだ・・・)
ルークを引き離せばより一層の不安を心中に植え付ける事になる、だからせめて共に問題に取り組めるなら少しでも安心させることが出来る。そんな考えが無自覚にらしくなく出たから、あんな言葉が出てしまったのではと浮かんでくる。
だがもう一つ・・・思考に浮かんだ一番自身にとって有り得ない言葉に頭を振りかけて、何とか押し止める。だが瞳にその色は顕著に現れていた。



・・・意識に浮かぶその言葉はすぐさま抹消されたが、瞬間で浮かんだ言葉は『生への渇望』だった。

ジューダス自身としては説得は何が何でも成功させる気概を持っている、認められるかどうかははっきりと言えば二の次と言えた。故に最後は説得さえ成功すればよく、ルークを安心させる必要は全くなかったと言えた。自身は消える身なのだからその方が都合がいいはず。

だがルークを引き離せなかった、その事実がジューダスには安心を与える為という理由以上に暗い影を落としていた。もしうまく行ったならルークの言うようこの世界に居場所が出来てしまうのに、自分の事はどうでもよかったはずなのに・・・

更に幸せなのか、と切に強く問われた事がジューダスの心を揺さ振っていた。幸せ・・・それは紛れも無い本音で語った事だが、自分がいない世界でルーク達が穏やかに暮らす前提があってこそだった。だが自嘲気味に自身が消える事が有り得る流れを話した時、ルークは自らの境遇を嘆いて助けたいと言ってくれた。



(あれはルークを落ち着かせる為に言った事なんだ・・・)
ジューダスは生への渇望を認めたくなく、一人自分に言い聞かせるように心で何度も呟く。
もし全てが終わってルークが自らに手を差し延べて来たなら、自分はその手を払う事が出来るのだろうか?本当に自分はあの時空間に戻って一人になりたいのだろうか・・・?
頭に浮かぶもしもはジューダスの固い決意をどんどんと揺さぶり、その揺さぶりを無くすべく逃避をしている。









互いが互いに自らの想いに必死になっていた。もし誰か第三者がいたならその光景に、口を挟んでいたことだろう。端から見ていて心配になったと、思わず言っていたことだろう。

だが唯一意識のある第三者のローレライは何も言えなかった。二人の過去も今も、ローレライは全部知ってしまっている。そしてどれだけ二人が悩み苦しんで、それは当の本人達以外には解決しようのない問題でもあると。



・・・三人は誰一人として言葉を発する事はなかった、ただ心の中を明かせない事をルークとジューダスは表情に滲ませたまま・・・互いの顔を見れないままに・・・





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