救う者と救われるもの 第十九話

・・・何はともあれ、シンク達はインゴベルト陛下からの遣いを無事に終えた。そんなアルビオールはバチカルへと戻り、シンク達は謁見の間へと入る。

もう和平に踏み切るというのは世界へと盛大に示しても構わない、故に謁見の間で堂々と報告するため通されたのだ。



「陛下、ただいま戻りました」
「うむ、ご苦労だったな。シンクよ」
ルーク達とファブレ公爵以下の貴族達が横に並び立つ赤絨毯の上、シンクは適度な距離を保ち立ち止まると陛下へと頭を下げる。陛下もその労を労う。
「早速の報告でございますが、ダアト・マルクト・ケセドニア。いずれも我々の呼び掛けに応じ、ユリアシティでの会合を行う事を了承してくださいました。数日の内には導師から会合の準備を終えたとの連絡が来るでしょう」
「うむ・・・皆の者、聞いた通りだ」
朗報を聞いた陛下はすっと椅子から立ち上がり、通る声で場にいる人全てへ語りかける。
「わしは導師からの連絡が参り次第、ユリアシティに行こうと思う。クリムゾン、及びルーク達と共に。残る諸君にはぜひともキムラスカを守っていただきたい、これは預言から脱却するために出すわしのキムラスカ王として公に出す初めての命令だ・・・従ってくれるな?」
「「「「はっ!」」」」
威厳と懇願、二つの非なる圧力を混ぜ込めた陛下の言葉に臣下一同が迷いなく礼を篭めて返答する。ルーク達が戦争を止める為にここバチカルに戻ってから数十日、揺れた決意を持っていた臣下達を陛下は再三説得を繰り返していた。その結果、他の貴族達も陛下の心に打たれ一つにまとまっていった。
「・・・さて、シンク。改めてご苦労だった。わしはユリアシティに行く時、わしがいない間の事を今から話し合う必要がある。そなたらはルーク達と共に退出して休息されるがよい」
「はっ」
そんな返答を受け、陛下はシンク達を労るようルーク達との休養を命じる。断る理由もないシンクはさっと返事をする。
「ではルーク。部屋を用意する間、ルークの使う部屋でシンク達と話していなさい」
「はい、叔父上。では失礼します」
「?」
その返事に会議をするためルークに共に退出するようルークに言い、ルークはそうすると返すと頭を下げたジューダスと一緒にシンク達の元へ近づいてくる。しかしシンクは出て来た言葉に引っ掛かりを感じていた。



「ねぇルーク。なんでファブレの家に戻らないの?」
城の中の客室の一室、あてがわれたであろうルークの部屋に入りベッドでボフンボフンジャンプをしているフローリアンを尻目に、シンクはルークと椅子に腰掛けテーブルごしに先程気になった質問をぶつける。
「・・・それはアッシュと話し合ってからにしたいって思ったんだ。あいつがキムラスカに戻るかどうか、まだわからないけど・・・アッシュともう一度話し合いたい、あいつの気持ちを聞くまでは俺はあの家には戻らないって決めたんだ。だから最初宿に泊まろうとしてたんだけど、うちに戻らないって父上に断ったら陛下が話を聞いて城の中のこの部屋を用意してくれて・・・」
「あぁ・・・そういうことね・・・」
真剣にアッシュと対峙することを考え決意したのだろう、ルークの表情は重く暗かった。が、陛下からの気遣いに対して苦笑いを浮かべるルークにシンクは納得をする。本来そこまで世話になる気はなかったのだろう、仮の寝床にまでは。
しかし国の在り方を滅亡から変える為に活動していたルーク達を放任するほど、陛下達は無責任ではない。むしろそのくらいのことならと、陛下はこの部屋をすぐに用意したのだろう。せめてもの礼と慰安を込めて、この部屋を。
「いいんじゃない?あんたもジューダスもそのおかげでゆっくり出来たんだろうし」
「・・・うん」
内心少しすみませんと思っているであろうと感じているルークにシンクはおどけるように軽く首を傾げ、そこまで気にする必要はないと暗に述べる。その声にルークは苦笑いから微笑に変わり、肯定を返した。








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