救う者と救われるもの 第十九話

・・・そして少しの時が経ち、マルクト・グランコクマの謁見の間。






「申し上げます陛下。神託の盾六神将のシンクがキムラスカのインゴベルト陛下の使いとして、お話があると申してこのグランコクマに参りました」
「何・・・?確かシンクはルークとやらと一緒に行動していると聞いたが、シンクだけなのか?」
謁見の間で玉座に座っていたピオニーの元に、兵士が報告を持って来た。しかしシンクと聞き話が噛み合わない事でピオニーは体を乗り出し深く聞き込む。
「いえ、同じく六神将のアリエッタとフローリアンと申す二人と共にです。ルークというお方はおられません」
「・・・そうか。ならシンク達をここに通せ。それとジェイド達もここにすぐ来るように呼び出してくれ、あいつらにも話を聞いてもらった方がいい」
「はっ」
三人の様子を聞き二つのグループを呼び出すよう、兵士に命を下す。敬礼を返し兵士は入口へと戻っていった。






・・・その呼び出しに先に謁見の間に入ったのはジェイド達。シンク来訪、とのことで飛ぶような速さで謁見の間に来た六人はピオニーの前で今か今かと扉を凝視している。
‘ギィィィィィ’
重厚感に満ちた扉が開かれ、一気に送る視線にも力が入る六人。そんな中をピオニーに近づく為シンクを中心に両斜め後ろにアリエッタ・フローリアンの二人が付いていく形で三人は堂々と歩いていく。
(・・・本当だわ・・・シンクとアリエッタの二人に、フローリアンが付いて来ている・・・こんな事が起こるなんて・・・)
ティアは思わず驚きで手で口を隠したくなった、それほどこの三人のスリーショットを実際に目の当たりにした事が衝撃でならなかった。もっとも他の五人に到っても同様で、ジェイドですら驚きを眼鏡を上げる動作で押し隠している。
そんな驚きなど露知らず、シンク達は適度にピオニーに近づいて足を止める。
「お初にお目にかかります、陛下」
「あぁシンク、アリエッタ、それにフローリアン。堅苦しい挨拶は抜きでいい。早速だがまず聞きたい事がある」
シンクが形式張った礼をしようと頭を下げようとするがピオニーは会話を途中で制し、重苦しい雰囲気を纏わせる。
「今この場にルークとジューダスの二人がいないのは・・・もしや、障気の中和で二人は乖離したのか・・・?」
単刀直入に告げるピオニーの言葉に、まるでこの場が無罪か死刑か判決を待つ裁判所のような異様な空気に変わる。
ジェイド達は外殻大地の降下作業をしているとは知ってはいたが、障気中和までもを成し遂げるなどとは誰もが想像してはいなかった。魔界に降下しても晴れ晴れしい空、その光景を見てジェイドの心にはルークが超振動を以ての障気中和をしたと絶望にも似た結論が浮かんでいた。
超振動を使わない障気中和の為にはタルタロス、そしてい組・め組の協力が不可欠となる。しかしルーク達は一切ベルケンドには寄っていないし、自由に使えるタルタロスなどどこそこに普通にあるわけもないし、インゴベルト陛下の口からキムラスカのタルタロスを提供したとも聞いていない。故にジェイドの頭は・・・ルークの超振動以外に障気中和の方法がないと、弾き出していた。
むろんその仮説は中和された障気を訝しんだ五人、及びピオニーもジェイドから聞き出し知ってはいる。だからこそ・・・シンクから出る言葉がなによりも最大の懸念だった。



しかし雰囲気を全く重く感じていないシンクはあっさりと口を開く。
「中和の際にはローレライが手を貸し、乖離をしないように手を尽くしてくれました。故に彼は死んではおりません、今はバチカルでジューダスとともに休んでいただいております」
「・・・ふぅ・・・そうか・・・」
ピオニーが心底安心した息を吐くと、途端に周りも胸を撫で下ろして息を吐いた音が出て来る。そして重苦しかった空気すら霧散して消え去った。
・・・ルークは今確実に生きている、その事実はなによりの朗報。ジェイド達は心より、ローレライに感謝せざるを得なかった。







9/22ページ
スキ