救う者と救われるもの 第十九話

「じゃあね、僕たちは行くから。アスターには導師の頼みだって言っておくから」
「失礼します、イオン様・・・」
「じゃあまたね!」
後ろを向いたままシンクは別れの挨拶をして退出し、アリエッタ・フローリアンも前者は頭を下げて後者は手を振って笑顔でその後を追う。
扉が閉められ、二人だけになったイオンの私室。
「導師、ユリアシティには私も連れていっていただけませんか?」
見送った後すぐさまディストは一緒に行きたいと願い出る。
「えぇ、いいですよ。貴方もルーク達に会いたいでしょうから、護衛としてでついてきていただきますけどいいですか?」
「連れていっていただけるなら一向に構いません」
イオンはディストに断りを入れる訳はなく、アニスの代わりとしてなら連れていくと六神将の立場を鑑みて場に入りやすいよう条件を出す。ジューダスと再び会いたいディストは即決で返す。
「ではモースにも話をしに行きましょう。彼もまだ悩んでいるでしょうが、だからこそ会合には参加していただかないと・・・」
「・・・そうですね。何をするにしても預言が無くなったら人は変わらないと生きてはいけません。特に彼は顕著に預言を信じる信者、その場で未練を断ち切らなければ希望を見いだせないでしょうから」
未だ憔悴し、部屋にこもりきりのモース。ローレライがモースに何をしたのか、それは本人以外誰も知らない。だが確実に言えるのは預言から離れなければ、世界はもう動かない程の状況にあること。それを理解するためにはユリアシティにモースは行かなければならない。
ディストはジューダスに話を聞き、これからの自らの指針を決めたいと考えている。もしかしたら自分もモースとともに人生の未練を断ち切る事になるやもしれない、そう考えながらディストはイオンと一緒に私室を出て行った・・・













・・・ダアトを出たシンク達。次の目的地はダアトからより近い位置にあるケセドニア。街の近くの平野に降り立ったアルビオールから出たシンク達はまっすぐアスターの屋敷に向かった。



「・・・という訳です。それで貴方には住民への説明をするため、ケセドニアの代表としてユリアシティの会合に出席していただきたいのですが・・・」
「イヒヒ。かしこまりました。インゴベルト陛下と導師イオンの頼みです、喜んでユリアシティへと参りましょう」
初対面から長い説明を経て、シンクはアスターへの協力をこぎつけた。ただ最初、三人はアスターの人相及び話し方に耐性を持っていなかった為に最初不安を覚えていたというのは余談である。









「ふぅ・・・次はマルクトか・・・」
椅子のひじ掛けに肘を置き、頬杖をつきながらシンクは疲れたように呟く。
「まぁ死霊使い達がマルクトにいるんだ、すぐにユリアシティに行くって言ってはくれるだろうけど・・・」
そこまで口に出しながら、後の内容を出す事をシンクは思い止まる。
話に聞けばルークと同じよう過去に戻って来た口、しかも理由がルークを助けるための一言に尽きる。だがそれが問題なのだ、シンクにとっては。
そのような理由で戻って来たのならもしやマルクトに会合の事を伝えた後、アルビオールにジェイド達が一緒に連れていってくれと乗り込んで来る可能性が高いとシンクは考えていた。むろん向こうには外ならぬナタリアという王女の存在がある、戻りたいといっても断る理由など何一つない。だが・・・
(・・・なんだろうね、なんか面白くないんだよなそれだと・・・)
一緒にバチカルに戻ったならそれこそルークは喜ぶだろう、歓喜の涙を流し。だがその瞬間を思い浮かべると、シンクにえもいわれぬ感情が浮上して自然と不機嫌になる。



・・・シンクはわからなかった。ルークが泣く事に気持ちが行っているのか、感情を受けるティア達に気持ちが行っているのか、自分がその場を見ているしかないと理解しているから気持ちが行っているのか。ただいずれかにしても、全部にしてもシンクは感情の正体に気付く事はないだろう。少なくとも今この時は。

・・・その感情の正体は嫉妬、虚無的な考えを持ってヴァン達の計画に協力していたシンクに生まれた物である。初めて信頼をしてもいい相手が現れた、その相手が自分から離れていくかもしれない。無自覚に感じた不安に嫉妬をシンクはしている。



人間くさい一面をシンクが覗かせつつ、アルビオールはマルクトへと順調に飛行していった・・・











8/22ページ
スキ