救う者と救われるもの 第十九話

端からルークの様子を見ていたジューダスもその言葉の意味に硬直しかけた、だが尋常ではないほど陛下の言葉に驚いたのはその顔のまま硬直したルークだ。
「・・・陛下。もしや陛下の言葉が意味するのは、ルーク様と共に旅をしたナタリア殿下達も未来からお戻りになられた、ということですか・・・?」
硬直が未だ解けないルークを差し置きジューダスは耐え切れず、はっきりと陛下の言葉の核心を得ようとする。
「うむ、その通りだ」
頷き確かな返答が陛下の口から返される。その瞬間、ルークは硬直したまま口だけを動かす。
「そんな・・・なんで・・・」
信じられない、だが嬉しい。囁きにも似た大きさのその声は全員の耳に届き、陛下はゆっくりと真実だと分かるよう穏やかに口を開いた。



「ルークを助ける為、それ以外に理由はないからだ」



陛下の声にルークは陛下を見るが、そこにルークは陛下の背後に確かな幻影を見た。ティア・ガイ・ジェイド・アニス・ナタリア・アッシュ。そこにいるはずがないのにまるで陛下と共にその言葉を発しているかのような優しい顔で・・・



一時の気の迷い、人の念が成した奇跡。多々色々言えるだろうが、ルークは確かに見えたその仲間達の姿を幻影とは割り切る事が出来なかった。
「・・・うっ、ぐっ・・・ヒグッ・・・」
何かの重圧に耐え切れず膝を折る様子にジューダスが屈んでルークの顔を見るが、途端に聞こえた鳴咽に全員が泣く事をこらえ切れず腰が抜けたんだと理解をしてホッとする。そこにルークの声が小さくジューダスに向けられる。
「ジューダス・・・俺、俺ぇぇぇ・・・ずごく、うれじい・・・グズッ・・・皆、皆来でぐれだなんで・・・」
「・・・泣くか喜ぶかどっちか一つにしろ。ただでさえ小さい声が更に聞き取りづらくなっている」
「・・・だっでぇぇぇ・・・」
精神が完全に子供化したように袖で涙を拭いながら泣きじゃくるルークの顔を見るジューダスは、少し間を空け仕方ないと溜息を一つ小さく吐くとルークの頭を抱き寄せ胸の中へと収める。
「どっちか一つに絞れんというなら好きなだけ泣け・・・ティア達に会う時、不様に泣き腫らす事がないようにな」
自分でもらしくない事をしているとジューダスは一番感じている、だが今目の前でこうも仲間との思わぬ再会を果たせるかもと知って泣いているルークを放っておく事が出来ず、口調だけはつっけんどんとしながらも慰めに入ってしまった。誰かをたしなめはしても慰めはなかったなと自らの人生を振り返りつつ、ただ胸の中で震えて泣いているルークを見て今度は陛下を下から見上げる。するとその視線に何か考えが浮かんだようにはっとして、陛下の顔がシンク達へと向く。
「ジューダス。しばらくそなたはルークと共に居てやってくれ。私はシンク達に少し話があるので別の部屋に行かせてもらう」
抑え気味に出された声と入口をあごでクイッと指す陛下の行動。ジューダスはルークをゆっくりと泣かせようという陛下の気遣いを感じ取っていた。
「・・・かしこまりました、陛下。ほら行くよ、二人も」
「わかった、です」
「・・・はぁい」
シンクとアリエッタも気遣いに賛成しすぐに陛下に着いていくというが、フローリアンは二人の事が心配だというのも隠せず渋々同意する。
外に行くと決まり部屋を出ていこうと四人が四人足を運ぶ中、一人一人ルークを頼むという視線をジューダスに送って部屋を後にする。
「皆ぁ・・・ジューダスゥ・・・ヒクッ・・・」
気を遣われた当の本人ルークは泣いている最中に頭をこすりつけつつ肩に手をかけ、遠慮などせずに堂々と泣き続けている。
「・・・気が済むまで泣け。もう二度と泣く事がないほどにな」
やはりらしくないなと自分の言葉に心で苦笑しつつ、ジューダスは眠るように目を閉じる。これ以上は自己嫌悪の域にまで行くような発言までしかねない、そう思ったジューダスはただルークの泣く声を耳にしながら、ルークが泣き止むのを静かに待つ事にした。








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