救う者と救われるもの 第十八話

一つ一つ道筋を漏らさないよう、丁寧に話されるルーク達とヴァン達との激突。話に要した時間は数時間、その内容は全てヴァン達のやろうとしていた道筋の一部もトレースしており、ヴァン達は話を終えた頃には信じざるを得なくなっていて自らが敗れ去った事を自覚していた。

そこでヴァンは話を終えた時、一つ皮肉だと思えるような自嘲の笑みになる。



「・・・まさかレプリカに私の計画を覆されるとはな・・・」
「兄さんがそう思っていたから兄さん達はルークに、私達に敗れたのよ。そして今こうしている間にも彼は兄さん達の野望をくじこうとしている・・・」
状況が既に覆しようの無いものだと悟りを感じたのか、その顔は故郷を思うような寂しさを写す。ティアはそんなヴァンに手を胸元に置き、膝を屈めて話をする。
「・・・それに今ルークにはジューダスがいる。彼のおかげで、もう兄さん達には手を出せない所にルークはいるわ・・・」
精一杯諦めさせようと口を開くティア。しかし見た事もないジューダスの名を口に出して信頼を表していると見せるにはティアは釈然としない思いがあった。
「・・・ティア。何故お前はジューダスという者の名を出した時、顔を曇らせた?」
「・・・え?」
リグレットの指摘に目を瞬かせ、どういう事かとティアは一瞬戸惑う。
(私・・・そんなに顔に出てたの?)
そう考えなければまず指摘に説明がつかない、ティアは未熟な自分に少し俯く。しかし無理はない、ティアはジェイドと違いジューダスが優秀で最大限ルークの助けになれる人物だと行動だけで思える程楽観的には物を見れない。なにより彼女自身考え込んでしまう性質の為、実際に見た物でなければ安心出来ないというヴァンにある意味育まれた性格が災いしていた。
「まぁそれは仕方のないことなんですよ。我々は彼に会った事はないのですから」
その質問に答えたのはジェイド。そしてその話し口に反応したのはラルゴ。
「会った事がない・・・?仲間ではないというのか?以前からの・・・」
「そうですよ。あなたたちと実際に対していたのはこの場にいないイオン様とルークを含めて八人。ジューダスなんて人物は九人目にいませんし、名前も聞いた事はありません」
「・・・ならば、何故レプリカルークはジューダスとともにいる・・・?」
そこにヴァンが疑問をジェイドにぶつける。
「さぁ?それは寧ろ我々が聞きたいのです」
疑問に軽口を持って返すそのジェイドの顔は、ヴァンに笑みを向けている。
「ですが以前と違うこの流れを作っていて、私達が独自の方法を持ってあなたたちを捕まえるに至ったのはジューダスの起こした事・・・それだけは確かなんです」
「・・・っ・・・何がおかしい!」
ジェイドらしくない皮肉が見えない笑みを見せ付けられ、ヴァンは馬鹿にされたと激昂する。
「いえ、おかしいのではありません。ただ・・・」
そこで話を途中でジェイドは切る。中途半端なこの状況で話を切ったのは何故か?・・・それは・・・






「・・・え・・・これは・・・?」
「この感覚は大地が・・・下りている・・・」
「・・・ということはルーク達が外殻大地の降下に・・・」
「成功したんだな・・・あいつ・・・」
アニス・ガイ・ナタリア、そしてアッシュの順に起きた現象をルーク達が起こした物だとタルタロス運転の手を止め感慨深そうに声をあげる。
「まさか・・・いや、これは確かに降下の・・・」
ただ、ヴァンは信じられないのか呆然とする。
「これは貴方達を助けたいというルークの思いですよ」
そんな様子にまたジェイドが声をかける。
「先程の続きですが、ジューダスの策は誰も犠牲を出したくないというルークの考えを元にしています。今ローレライがルーク達の元にいて外殻大地の降下がなったこと、そしてあなたたちが欠ける事なく無事でいること。最後は私達が勝手にやった延長線上の事とはいえ、ジューダスにしてやられました。私達に関わっていない人間にここまで私達も含め、手玉に取られてしまったんです。そう思うとあまりの見事さに笑う事しか出来なかったんですよ」
ここまで感嘆をあらわにしたジェイドも珍しいが、嘘はついていない。人を皮肉付きで褒める言葉を出すのがスタンスだが、それがついていない。このことがいかにジェイドが本気で感嘆を示しているのかを表している。
「・・・さて、お話はここまでにしましょう。外殻大地降下が終わった後はキムラスカとマルクトの和平が待っているのです。さぁ、グランコクマに改めて向かいましょう」
自らの作り出した雰囲気を消そうと、ジェイドはアッシュ達に出発しようと促す。アッシュを除き笑顔になった全員は首を縦に振ると、再び操縦の為に意識を集中しだした。思惑が崩れ呆然としか出来ないヴァン達を尻目に。









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