救う者と救われるもの 第十八話

・・・この後世界の命運をかけた場に向かうとは思えない程、穏やかな朝食を取ったルーク達。フローリアンの食事マナーを教えるシンクに、偏食が多く野菜をあまり食べないルークを叱るアリエッタ。それらを全て近くでティーカップを傾けて優雅に眺めるジューダス。

決戦というには多少語弊があるかもしれないが、決戦に向かうはずの五人の表情の趣には重さが感じ取れない。それは歓迎すべきことだ。下手な固さを残し、心に後悔を残さない為には。








・・・だがやはりその表情に至るまでの主たる理由はジューダスの存在にあった。



食事も終わり各自の部屋に戻った全員が身支度を終え、チェックアウトを終えた宿の入口前に集合する。
「さぁ、行こうか皆」
終わらせる為に、そう笑顔で皆に出発の合図を取る。過去に戻る前のルークならけして表せなかったであろう余裕を見せ。
「ま、世界が滅びるかどうかなんていつになるか本当はわからないんだ・・・この際、先の見えない物同士ならヴァンよりあんたの信じる世界を見てやるよ。滅びを避けるために自ら滅ぼす世界じゃなく、滅びを回避して尚且つ預言を否定っていうあんたの想う無茶苦茶な理想の世界をね」
だから成功させてみせろ、言外な物言いに含まれた言葉はシンクにはありえなかった物だ。自らの不幸を嘆き全ての未来を見る事に絶望したシンクが、辛いなりにも人に先を選ばせる為の世界を望むという事が。
「アリエッタも、最後までお手伝いする、です」
イオンやヴァン以下の六神将以外の為に、真実を知ったアリエッタは自らの目に見える範囲から外に存在していた世界の為に動いている。内向的で自分の世界が何より大切だった影を持ったアリエッタはこの旅により変わった。
「僕も難しい事は出来ないけど、最後までルーク達と一緒に行くよ」
変わっていないと言えるのはただ、フローリアンだろう。無垢な目はただ信ずる者を捉らえて話さず、成長しようとする子供の目は正しく何物にも染まっていない‘無垢なる者’だ。
「・・・では行くか、まずはアブソーブゲートだ」
ジューダスは淡々と目的地に行く事を告げる、しかしこれがジューダスらしさなのだと知っているルーク達はただ頷くばかり。そして宿をバックにケテルブルクを後にしていく。






・・・望まれぬ異邦人、ジューダス。だが彼は人の為、ルークの為に再び戦う事を選んだ。
その姿勢、思想は直に彼を知ったルーク達と姿形すら見たことのないジェイド達にも多大な影響を与えた。文字通り世界を変える程に。

彼が特別だったからではない、彼がただ自らの良心に従い行動を起こしたからだ。この世界に来てから誰にも、それこそこの世界に来てから初めて弱い人間らしさを見せなかった物をジューダスは見せた。

・・・事実、ジューダスもオールドラントに来て変わったのだ。正しく言えばスタンやカイル達との関わりのあるあの世界から完全に切れたからこそ、人間味が強くなったと言えよう。誰も自分を知らない世界は罪の為に姿を隠す気を使う必要はないが、その分異邦人という立場が孤独を感じる心に響く。

それがかつての仲間達を彷彿とさせるルーク達との交流に、自らと比較するのはおかしいが同じような悩みを持った人との交流。ジューダスは傍らでは落ち着いた冷静な判断力を持ちらしさを発揮し、傍らで自らの内の事情と感情を吐露してまで人へ物事を説くというらしくなさを発揮した。

新たな環境オールドラントで彼は能力をいかんなく生かす中で、同時に出た孤独を収める為に自らの心を止める事が出来なかった。それが似た悩みを持っているからこそのシンパシーから来る、暴走だと分かっていても。

しかし人は無機質な物に心は動きは見せることは少ない、寧ろ理屈では表せない魂のこもった物に心は動かされる。もしジューダスがただ策を練るだけしか興味のない感情の起伏の少ない人間だったなら、ここまでの経過はどこかで崩れていただろう。かといって行き当たりばったりな考え無しの感情任せの行動では当然経過は失敗だ。

理性と本能・・・相反する二つのサガを謀らずも持ち合わせたジューダスは魅力がオールドラントにて開花したのだ。一度も会っていないジェイドがルークを思いやっているからこその理知的な行動だと、遠く離れたジェイドが理解が出来る程に。

相反する物二つをバランスよく背負ったジューダスを見てルーク達は成長し、変わった。もちろんルーク達自身の力によるものも大きい、だが心の一角にはジューダスがきっかけとして確かに存在している。






・・・アルビオールに乗り込んだ全員の表情はタタル渓谷から始まった時とは全く違う、まっすぐ揺らぎ無い物になっている。
「頼むノエル」
「はい」
短い会話を終え、アルビオールは陸を離れる・・・いよいよ・・・








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