救う者と救われるもの 第十八話

・・・朝日を受け白銀の雪景色に淡い燃えるような明るさが雪に反射する。
外は朝だと認識出来るケテルブルクの宿の一室、ルークは目を覚ましていた。


(・・・不思議だな。ヴァン師匠を倒しに行った時あれだけ不安だったのに、今はそんな不安が全く感じられない)
状況は違えど世界の命運を賭けた行動に移るというのに、いざそうするという時に以前あった緊張感が今の自分にない。ベッドに腰をかけ左手を握り開きしながらその手を見るルークの表情には気負いがない。ただそのかわり、決意が瞳に宿っている。
(・・・全部終わったら髪を切ろう。世界は変わる・・・変えなきゃいけないから、俺もその時世界の為に出来る事をしなきゃいけないから・・・)
後ろ髪を首筋辺りで束ねながら、ルークはすっと目をつぶる。もし預言回避・ヴァン制止に成功しても、残るのは事後対応。更に言うならヴァン達を止める時に顔を合わせるかもしれない、アッシュの存在。そしてジューダスを異邦人としてでない、この世界の住民としての向かえ入れ。
世界の為に、アッシュの為に、ジューダスの為に。前とは違う世界変革、人間関係。自分が何が出来るか分からないし、何も出来ないかもしれない。だがルークは全てを受け入れ、全力でぶつかるしかないと不器用な自分に一番理解を置いている。髪を切るのは儀式のような物、ティアの前で誓ったあの時とは違い‘変わる’ではなく‘逃げない’と誓う物だから。
(・・・駄目だな、先の事を考えるのもいいけど外殻大地降下に障気中和してからじゃないと・・・)
だがそれも不思議と落ち着いた自分の状態だからこそだと、先の事を考えた思考を首をブンブン振って忘れようとする中ルークは感じていた。
「もう朝だし、部屋から出よう」
何か自分らしくない、そう感じながら指輪の中のローレライに語るでもなく独り言でルークは立ち上がり、あてもなく部屋を後にしていく。










(・・・後数時間後には二つのセフィロトとレムの塔への強行軍の始まりか)
宿の中の別の部屋にいるジューダスも目覚めていた。彼は窓の外から見える朝の景色を見ながら思考を深めていく。
(それで僕の役割も大体終わる・・・後はヴァン達をどうにかせねばならん時、そして預言の真実を明らかにする時までだ。僕がルーク達に手助けをするのは・・・)
こちらはルークとは対照的に表情は暗く重い。
(これでいい・・・これでいいんだ・・・)
自分の欲を抑えるよう、これが摂理で最善の事なのだと自らに言い聞かせる。・・・誰かがジューダスの顔を見たらまず間違いなく苦しそうだと、はっきり言うに違いない。そこまでジューダスの表情は曇りが見えている。



・・・ジューダスはただ苦しかった。認める事の辛さは知っている、シャルティエを失った後すぐには常に傍らにいたシャルティエの事をもういないと認識出来ずしばらく癖で語りかけていた事。憎まれ口をたたき合う仲であったが、いないと認めると辛い物だと。

今独り言でもずっと生きていたいとでも言えば、楽になれるだろう。だがジューダスに関して言えばその渇望を一言でも口にした場合、彼の自身の過去を蔑ろにしたと自己嫌悪に陥るだろうから。
だがそれも無理はない。ジューダスは誰かの為にと常に考えていた、大切な者の為に動く人間なのだ。自分の為に、といった考えで動いた事はそうはない。マリアンの為にスタン達と相対し、カイル達の為にエルレインと戦った。二つは意識と状況が違えど、最終的にはジューダスは想う人の為にと願い戦った。

自身の為に動く、なんてジューダスは意識にほとんどなかった。・・・だからこそ自らの幸せに頓着することのない、大切な人の幸せにしか願いのないエミリオ・カトレットという人格が生まれた。自らの幸せはリオン・マグナスの後のジューダスという時間でカイルを助けた事で完結、本来ならもっと生きたいと願い出てもいいというのに。

彼にとって本来自分に来る幸福は度外視され、罪という枷がその幸福をより拒絶する。しかし本来人間が持つ欲は、本能は幸せになりたいと切に訴えている。それを認めてしまったなら自分ではなくなる、だからこそその欲をごまかさねば・・・



「・・・気晴らしに外に出るか」
このもやもやした気持ちをどうにかする為にも、そういった考えでジューダスは部屋を出ていく。









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