救う者と救われるもの 第十七話

「しかし旦那、向こうの神託の盾は素直に出て来るのかい?」
二人での話が終わったのを見計らい、ガイはティア達と共に二人に近づき神託の盾が乗るタルタロスを見上げながら質問をする。
「蛇は頭が無ければ動けない物です。六神将、ヴァン謡将という頭がいない彼らにはあがくという行動も出来ません。将がいれば兵士は従うものですが、将を失えば兵士は引くものです。心配はいりませんよ」
「・・・成程」
兵士の心理という物に精通しているジェイドだからこそその言葉に重みがある。ガイはただ感服して、深く頷く。
「アッシュ・・・」
今度はナタリアの声がアッシュに届く。アッシュがナタリアに視線を向けると、胸の前で手を合わせ心配そうな顔のナタリアがいる。
「・・・なんだ、ナタリア?」
「アッシュ・・・アッシュはルークを助けたいと言いましたがその後はどうなさるのですか・・・?また神託の盾に戻る訳ではございませんわよね・・・?」
その質問にアッシュは気まずそうに眉間を寄せ、視線を反らしたくなる。
ナタリアが言いたい事は分かる、是非ともキムラスカに戻って欲しい。そう言いたいのだと。
少なくとも神託の盾で活動する気はない、まずナタリア達が許さないし神託の盾にいたのはヴァンに尊敬の念を持っていたからであって今はその気もない。



返答に困ったアッシュは苦くした顔でナタリアに答える。
「・・・それはまだはっきりとは言えない。俺は一応のケリはあいつとはつけた・・・・・・今のあいつとなら俺はキムラスカに戻ってもいい、俺はそう、思っている」
長い間を空けてそう言う姿はやはりルークに素直に好意を持っているとは言えないアッシュらしさ、だが認める辺りは進歩をアッシュも見せている。
「だが父上や母上にはまだ話を通していない・・・俺はルークを助け終えたらもう一度、父上達に会いたいと思う。そこで俺達二人が父上達に認められたなら、俺はキムラスカに戻らせてもらう。だから・・・まだ、キムラスカに戻るとは決まっていない」
「そうですか・・・でしたら安全ですわ。伯父様ならお二人を否定するはずがありませんわ、事情は既に把握しておりますので」
「事情・・・?どういう事だ、ナタリア?」
「それも併せてグランコクマに向かう道中で話させていただきます。二度手間というのも嫌でしょう」
「・・・ふん。まぁ、いいだろう」
ジェイドからの声にアッシュはいいだろうと、鼻を鳴らしそっぽを向く。その態度にもう話を続ける雰囲気ではないと察したナタリアは安堵を残した様子で、アッシュを見つめている。



だが内心アッシュは複雑極まりなく、話を反らしたジェイドに感謝していた。
(・・・死霊使いも理解しているのかもしれんな、大爆発の事を)
懸念という不安に満ちた想いをジェイドが察したのかもしれない、自分が大爆発があったからこそ生きて帰って来た事実を忘れていないからこそのフォローなのだと。
(遠からず俺とルークは再び大爆発により、一つになる可能性が高い。その時はルークが消える事に・・・)
真実を知った今、自分が消える事はないというのはいい。だが代わりにルークが消えるという真実も代わりに知った。アッシュにはルークを認めたからこそ、その事実が重くのしかかる。ただルークをはねのけていた時だったなら、いい気味だとでも言っていただろう。しかし今は一人のルークという人物として認めたアッシュにとって抜き差しならぬ問題と化していた。
(・・・後で死霊使いに話を聞くしかないか)
音譜帯からローレライによりタタル渓谷に戻された時、大爆発によりルークの身体を乗っ取った為に戻って来れたと説明はした。だが今のナタリア達に大爆発の危機に対して意識は全くない、ルークを助ける事にだけ集中していて・・・相談出来るのはジェイド以外いない、アッシュは後ほどにジェイドに密会しようと神託の盾兵士が続々とタルタロスから出て来るのを見て決心した。










一つ片付く問題、そして新たに湧く問題



暗雲に気付くは一部の者のみ



焔に迫る命運は焔すら知らない





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