救う者と救われるもの 第十七話

空気が重い・・・ラルゴと相対しているジェイド達の緊迫感も、ラルゴのヴァン達を取り戻そうという決意も全て場に質量を宿したように体にのしかかる。

今この場で武器を手にしていないのはコンタミネーション現象により自在に槍を出し入れ出来るジェイドと、未だ戦闘体勢に入っていない・・・



「行くぞ、アッシュ」
ラルゴは共に六神将として場にいるアッシュに戦闘の合図をかけるかのように、アッシュを見ずにジェイド達に意識を残したまま声をかける。
‘ツ~~~’
横で剣を鞘から抜き出した音がラルゴの耳に届く。やる気になったかと思うと同時に、ラルゴは重心を低く落として前傾姿勢に入る。・・・ここから死闘が始まる、刹那もしない内にそうなるだろうとラルゴ自身が1番そう思って・・・



「崩襲脚」
いた。



‘ゴッ!’
鈍い音がアッシュの声から少し遅れて辺りに響く。その音の正体は剣を抜いたアッシュが無造作にラルゴに歩み寄り、崩襲脚で上に跳びラルゴの頭を狙った物だった。結果はジェイド達だけを警戒していたラルゴにとって致命傷、意識の外から放たれた一撃を喰らったラルゴは倒れないようにと耐える事なく、倒れていった。
‘ザザッ’
ラルゴの巨体が地上に引かれて落ち切った。その瞬間タルタロスからジッと拡声器のスイッチが入った音が聞こえる。
『そちらのタルタロスに乗っている神託の盾に告げる!そちらの指揮者であるヴァン謡将、そして六神将はこちらの管轄にある!ただちに降伏すれば身の安全は保証する。しかし抵抗するのであればこちらも容赦はしない!降伏される場合武装解除してタルタロスから降りられよ!』
フリングス少将の容赦を感じさせない宣告。拡声器ごしとは言え、その言葉が本気であるとわかる。



「ご苦労様でした、アッシュ」
「・・・死霊使い、テメェ俺がラルゴを攻撃しなかったらどうするつもりだった?」
宣告がなされた中で、ラルゴを捕縛に来たマルクト兵士を横にアッシュに笑顔でジェイドは歩み寄る。だが打ち合わせも何もしていないあの状況でジェイド達に味方についたのに、さも当然と言わんばかりに労うジェイドにアッシュは困惑の声を上げる。
「いやぁその時はその時です。まぁ貴方が味方であるというのはわかっていた事ですから、六神将捕縛に協力していただけるようにルークの事情を説明させていただきました」
「・・・チッ」
アッシュなりにジェイドの答えから、踊らされたと察して舌打ちをする。
ルークの事情は掛値なしに聞いて驚きを隠せなかった。そしてアクゼリュスが住民救出を終えて魔界に落ちたという事も。既にルークは行動を起こしている、そしてジェイド達も独自の行動を取った。ヴァンとリグレットを捕らえて来たということからそれも理解できた。
故にラルゴを急襲してジェイド達の助けになろうとした訳であるが、その思考すらも利用されたようにアッシュは不快になる。だがジェイドは不機嫌になりつつあるアッシュに、質問をする。
「アッシュ。本当にディストはダアトにいるのですか?」
「・・・あぁ、あいつはレプリカ技術研究の為に戻りたいとか言ってな。特にやることもなかったからリグレットの許可をもらったらすぐさま飛んで行きやがった。だが死霊使い、何故ディストの行方だけ聞く?シンク達の行方は聞かないのか?」
話の先がディストだけに向かった事で不機嫌さを紛らわせるように、シンクとアリエッタが何故対象になっていないのかと真面目に問う。
「その訳は追い追い話させてもらってよろしいでしょうか?我々はこれからグランコクマに向かいますので、その道中にでも」
「グランコクマだと?」
「えぇ、本来でしたら謡将達を牢屋に繋ぐ場所はバチカルが望ましい所ですがタルタロスは公にはまだ和平を結んでいない状態では港につけれません。それにグランコクマでしたらすぐにはセフィロトには行けませんしね。用心はしますが謡将達が脱走をもしした時の為、ルーク達と鉢合わせすることが無いようにグランコクマに向かわせていただきます」
「・・・わかった」
腑に落ちない事はいくらもあるが、話を聞く事は後でも出来る。アッシュはジェイドのグランコクマへの同行を決め、頷いた。






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