救う者と救われるもの 第十七話

新たに送られて来たタルタロスに乗り、六神将が乗るタルタロスへと向かったジェイド達・・・さして遠い位置に目標物がないという事で、すぐに対象となるタルタロスが視界へと入る。そこで目標が見えるや否や、このタルタロスの全件を委ねられたジェイドが素早くマルクト兵に指示を出す。
「向こうに威嚇程度で当てないように砲撃を行ってください」
「はっ!」
指示を受けた兵士は直ちに砲撃を放つ為に、照準を合わせる。
「砲撃、放ちます!」
そして準備を終えた兵士の声が、火薬の爆発する鈍い音と共に放たれた。








‘ドゴォンッ!ドゴォンッ!’
「「!?」」
直接的な揺れではない、だが僅かな振動と爆発してえぐれるようなでかい音が遠くないところから感じた事で、タルタロスのブリッジで無言のまま立っていたラルゴとアッシュの顔が瞬時に驚きに変わる。
「・・・何事だ!」
突然の出来事にラルゴは事実確認を取ろうと、近くにいる神託の盾兵士に強張った表情で声を出す。
「・・・え!?あ、あれはタルタロスです!あ、あのタルタロスが我々に攻撃を仕掛けて来たと思われます!」
「何!?」
兵士の言葉にラルゴが身を乗り出すかのように前進し前を確認すると、斜め前方より見えるのは間違いなくこのタルタロスと同型のタルタロス。その事実にラルゴだけでなくアッシュも同様に戸惑いを見せる。
「どういう事だ・・・!?」
「幸い損害箇所はないようです。どうしますか、ラルゴ師団長?」
報告と共に指示を仰いで来る兵士の声に、ラルゴは少し間を空ける。
「・・・意図はわからんがあれは敵だろう。ならば我らも・・・」
『神託の盾及び、六神将に告げる。こちらに戦闘の意志はありません。我らは交渉の為にここに参りました』
「・・・何?」
攻撃を仕掛ける、そう迎撃を命じようとした声を拡声器ごしのジェイドの声が遮る。戦闘だと意気ごみかけたラルゴは交渉と聞き、毒気を抜かれる。
『この交渉の代表には、六神将全員を指名させていただきます。よろしければ返事をいただきたい』
「なんだと・・・?おい、こっちに拡声器を渡してくれ」
何やらふに落ちないジェイドからの呼びかけに、真意を問おうとラルゴも拡声器を兵士から受け取り、口元に近づける。
『貴様、交渉とはなんのことだ?我々と何を取引しようというのだ?』
ここは慎重にと、ラルゴは素直に頷かず取引内容を問う。



『率直に言わせていただきます。交渉したいのはあなたたちが使っているそのタルタロスと、私達が捕らえているヴァン謡将とリグレットの身柄取引です』



『何!?』
計らずも声が上擦り、動揺が声に表れる。しかし今の言葉は聞き捨てならないと、動揺していることなどラルゴは気にしない。
『貴様、何を根拠に閣下達と取引などと!二人が貴様の元にいるとでも言うのか!』
『そうでなければ交渉などと言いません。少し近づきますので、甲板をよく見ていて下さい』
その声を聞き黙って近づくタルタロスの甲板部分を凝視するラルゴ達。
・・・徐々に近づいて来るタルタロス、そしてある一点を見るとラルゴの顔が瞬時に歪む。そこには縄で縛られたヴァンとリグレットが頭を落として椅子に座っていて、近くに抜き身の剣を持ったガイがいたのだから。
『分かりましたか?交渉に応じない場合、二人はあなたたちの元に戻ってくる事はありませんよ』
『くっ・・・』
ジェイドの言葉に苦虫をかみつぶしたような顔になるラルゴ。ここでタルタロス同士砲撃戦をしようにも向こうにヴァン達がいる以上、思い切った攻撃が出来ない。白兵戦に踏み切ろうにも二人を殺されれば目も当てられない、助け出そうにも白刃はヴァン達の喉元にある。
二人を助け出すために、ラルゴに残された選択肢は一つしかなかった。
『・・・わかった』
『ではすぐそこのタルタロスとタルタロスの間に六神将全員で来て下さい。そこを交渉の場にします』
では、と一声残しジェイドの声が消え去る。
「・・・行くぞ、アッシュ。閣下達を助けにな」
「チッ・・・何をやってやがる、あの野郎・・・」
現状この場にいるのは自分とアッシュの二人だけ。ラルゴはぼやきながらも動きを見せるアッシュを見て、使命感を胸に燈しブリッジを後にしようと歩き出す。



だがラルゴは気付いていない、アッシュの舌打ちの対象はまんまと捕まったヴァンに向けてではないという事を・・・








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