救う者と救われるもの 第十七話

ティアの微細な変化、そんな様子をヴァンは気付く事が出来ずにジェイドの後ろにいたティア、ガイ、ナタリアと視線を移していくとその視線がナタリアで止まる。
「・・・ナタリア王女もアクゼリュスに向かわれるのですか?」
話の矛先がナタリアに向く。その質問にナタリアは苦い顔をする。
「いえ・・・お父様は私にアクゼリュスへの出発を見届けた後、国境で経過を待つように言われましたの。本当でしたら私もアクゼリュスに参りたいのですが・・・救援が終わった後マルクトに和平成功の使者としての役割があるから、救助作業はルークに任せろと・・・私でしたらそのままマルクトに行きましても大丈夫ですのに・・・」
「・・・なるほど、そういうことですか」
最大限の譲歩が見えたのであろう、陛下とナタリアのアクゼリュス行きを賭けての討論を想像し納得してしまう。
娘を大事にしている陛下がアクゼリュス行きなど認めるはずがないし、ナタリアも住民救出という重要極まりない作業が未だ果たせていないことに焦れるはず。文字通り熾烈を極める程の言い争いがあり、陛下が苦し紛れに国境という崩落の危険性がない地で役割を決めたのだろう。






ヴァンが一人内心でナタリアがここにいることの理由を納得していると、ジェイドはリグレットに声をかける。
「さて・・・我々はこれからケセドニアに行く訳ですが、貴女はどうされますか?謡将もベルケンドから出られるのですし、ここにはもう用はないでしょう?街の入口までで良ければ我々とご一緒しますか?」
突然の同行の申し出、リグレットは警戒心を露骨に剥き出しかける。が、リグレットは瞬時に表情を真面目に引き締める。
「あぁ、構わない。入口までなら同伴しよう。よろしいですか、閣下?」
「うむ」
ヴァンに同意を求め了承をもらったリグレットは、ジェイドが同行を申し出た理由を自分なりに検討していた。
(あの死霊使いが単なる親切心で、などとタルタロスを奪った自分を誘うか?なら何故?・・・閣下のいる前で・・・閣下?そうか、閣下の存在があるからか。閣下は表向きは我々と関係していない、タルタロス襲撃には関わっていない。・・・もちろんその程度で死霊使いが猜疑心を捨てているはずはないだろう、これは保険だ。私と閣下の表の六神将と謡将という立場を利用し、襲撃させないようにしているのだ。少なくともベルケンドを出るまで、閣下を盾にして和平妨害はさせまいとする、な)
姑息な、と舌打ちを口内で納める。ボロが出ていない現状で襲撃した自分は警戒されて当然で、ヴァンを盾にされて攻撃できないのも事実。更にヴァンも計画に必要な事を断る理由がなく、自分にはどうすることも出来ない。自らの結論が間違いではないと信じたリグレットは頭を縦に振る以外、ヴァンとの繋がりを隠す事が出来なかった。






「さ、話もついたところで行きましょうか」
両者が思惑を読み取ろうと思考を深めていたなか、ジェイドが出発をしようと促す。反論も特に出ず、無言でガイを先頭にナタリア、ジェイド、リグレットと部屋を後にしていく。一番奥にいたヴァンが必然順なりに最後に部屋を出るはずであるが、一人部屋を出ずに一歩足りとも動かず頭を下げて佇むティアを見てしまうのも必然であった。
「・・・どうしたのだ?ティア」
妹のそのような姿にヴァンは優しい笑顔になり、ティアに近づき肩に手を置く。そこからあがったティアの表情は、隠せない。隠しようもない不安に満ちた瞳がヴァンに向けられていた。







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