救う者と救われるもの 第十七話

「・・・閣下、我々はこれからどうすればよろしいのですか?」
「・・・どうすればも何も、ルークが戻ってこねば私は神託の盾の主席総長として動く事も方針を助言することも出来んのだ。しばらく現状をお前なりに検討して、我ら神託の盾の方針の為に動いてくれ」



ベルケンドにてヴァンにあてがわれた研究室の中、椅子に座ったヴァンにリグレットがようやく取れた面会の時間で指針を示して欲しいと嘆願する姿がある。だが直接的に方針を聞けないリグレット。それは監視の兵士が二人の横にいるため、伏せた表現しか使えない故の事だ。

ヴァンも現状から迂闊に動けずリグレットが困惑を隠せず自らに助けを求めたという事に、情報過疎な状態なりに助言をする。だが過疎した情報の少なさと迂闊な事を言えない規制された自らの発言では、指揮を一任するから頑張れとしかヴァンにも言えなかった。



「・・・わかりました。では私はこれで・・・」
他愛のない会話はヴァンもリグレットも嫌う物で、ようやくの再会だが実入りの少ない会話に見切りをつけたリグレットは仕方なしに退室しようとする。
「うむ」
ヴァンも威厳を保ち頷き返す。
・・・これからのリグレットの行動に信頼を寄せ、待つしかヴァンは出来ない。リグレットはなんとしても閣下の為にと、打開策を練るしかない。
そんな現状が徐々に不利になって来ていることを内心、焦りに感じた二人。表情にはおくびにも出さないが、相当に計画に遅延していることが懸念だった。



・・・そろそろ口八丁でインゴベルト陛下とモースを言いくるめて此処から出してもらうよう上申するか、駄目なら最悪ベルケンドからの実力行使の脱走、ルークを無理矢理の捕縛、そこからレプリカ大地計画を予定より急ぎ敢行。共通した最悪の状態からの脱出の為のシナリオが、二人の頭によぎり始めて来た。

シナリオが、もしかすれば敢行される日が遠くないかもしれない。二人の脳裏に浮かび始めた考え。

・・・これ以上時間が空いたら確実に実行に移されただろうそれ。






しかしそれはリグレットが退室する前に、二人の頭から追い出される事となる。








‘ガチャッ’
「失礼します」
退室しようと身を翻しかけたリグレットの目の前の扉が開き、一人の男が数人の連れを伴い入室の言葉と一緒に入って来た。
「・・・!死霊使い・・・!」
リグレットの驚愕の声がヴァンにも届く。姿を現したのは飄々とした雰囲気をいつものように纏わせたジェイドと、アニスを除いたティア達三人だった。
そんなリグレットにジェイドはわざとらしく声をかける。
「おや、貴女は神託の盾六神将のリグレット殿ですか?何かヴァン謡将に御用でも?」
「・・・その用は終わった。貴様は閣下に何の用なのだ、死霊使い?」
そらとぼけた口調で馴れ馴れしく話すジェイドに、リグレットはタルタロスの件を思い出し刺のある眼差しと口調で返す。
襲撃を全て見透かしどうぞお使い下さいと空のタルタロスに乗り込ませたという感じが強く、拭おうにもそのイメージが全く拭えない。そして策を考えたと思われる当の本人がタルタロスを奪った事を至って気にした様子もなく、友好的に声をかけてきた。煮え湯を飲まされたと思っているリグレットがジェイドを警戒するのはある意味当然だった。
「いえ?たいしたことではありませんよ?私達はアクゼリュスに行く準備が出来たから、ヴァン謡将を呼びに来ただけですので」
「・・・は?」
その刺もなんのそのと、両手を水平に持ち上げ何でもないように告げられた返答にリグレットはらしくなく思考がストップする。
「・・・という事はルークは体調を整えたのですか?カーティス大佐」
動揺したリグレットの代わりにヴァンが立ち上がりながらルークの行方を確認する。
「えぇ、ですがバチカルに戻るのはアクゼリュス救援に時間がかかるという事でルーク殿はカイツールの軍港にケセドニアからまた戻らせ、ヴァン謡将と私達の到着を待つように命じたとのことです。私達は謡将の迎えに行くように命じられたのですよ、ケセドニアに行く前に足並みを揃える為にね」
「そうですか、ならすぐに出発しましょう」
早い切り替えを見せたヴァンはジェイドから説明を聞くと、すぐさまアクゼリュスに向かおうと意気揚々とまではいかないが親しい者には分かるニュアンスを言葉から醸し出していた。





その顔を見てティアが誰にも知られないよう手を強く、強くにぎりしめていた。








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