救う者と救われるもの 第十七話

雪が絶え間無く降り注ぐ中、広場にルークは街を見下ろすように以前。ティア達と旅をしていた時を思い出していた。






「・・・あの時、ここにいたのはティア達とイオン・・・あ、そう言えばアッシュも来たな・・・あの時は師匠から受けた傷で、俺にアブソーブゲートに行くようアッシュは渋々俺に任せたんだよな・・・」
独り言のその声と、昔を思い返す雪空を見上げた寂しげなその顔は誰も見ていない。時刻は夕方に差し掛かり、広場に元気に遊んでいた子供達も家に帰宅していった。正しく一人しかいないこの空間に、ルークの様子を見ている者はいなかった。
「・・・ダメだな、俺・・・もうティア達の所に戻れないってはっきり知ってる筈なのに・・・」
自嘲的に自分をたしなめながらも、その表情は上手く笑えずルークは瞬間で目をつむる。
「ハハッ・・・なんだろ?雪が目に入ったのかな?目の中がやけに濡れてんな・・・」
顔を俯かせて、目から溢れ出る液体を腕で拭おうとする。だが一度で済む筈の作業がルークは何度も拭うという作業を繰り返す。
「うっ・・・ヒクッ・・・」
・・・すると徐々に響いて来たのは鳴咽だった。



・・・ルークとて決意を胸に過去に来たとはいえ、かつての時に何の未練もなかった訳ではない。寧ろかつての時に全てがあったからこそ、過去に最高の時を来訪させるために戻って来た。・・・それがシンク達の救済に繋がっている、ティア達と共に問題に立ち向かって来たからこその本当の願いだから。

今はティア達が苦しみ悩む事もないからそれはいい、だがそれでも・・・失った縁はルークにとって唯一無二の物だった。



「ゴメン・・・泣くのはもう、これで終わるから・・・ティア、ガイ、ジェイド、アニス、ナタリア・・・もうちょっとだけ・・・泣いて・・・いいか・・・?」
名を出した五人が頷いて返してくれる訳でもない、だがルークは許しを五人に願う。それほどにルークはただ泣きたいと溢れる気持ちを抑え切れなかった。



前なら泣く事すらなく、自分の中で無理に気持ちをルークは押し込めていただろう。だが・・・悲しい事ではない、真逆の喜ばしい事をジューダスとの旅でいくらも経験した。幾多ある悲しみはルークも経験があるために耐える事が出来た、だが喜びに・・・悲しみを越える為の喜びに出会った経験はルークにはなかった。

それこそ感慨を覚えずにルークはいられなかっただろう。越えた喜びというのは、筆舌に尽くしがたいのだ。悲しさと嬉しさの振り幅が大きい、その反動はルークの我慢を大きく振り切っていた。
振り切っていたからこそ我慢の許容範囲の境が曖昧というか壊れてしまい、ルークはある意味で素直になって抑えがきかなくなっていた。



「俺・・・明日で全部やり遂げ、るから・・・うっく・・・ヒッ・・・」
鳴咽が一人もいない広場で誰に聞こえる事なく、消えていく。五人への想いを一人、ルークは涙を流し続け改めて翌日に繋げる事を誓ったのは誰も知る事はなかった。








・・・ルークもジューダスもシンクもアリエッタもフローリアンも知らない。その日、ティア達がベルケンドにヴァンを捕らえに行ったという事を・・・







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