救う者と救われるもの 第十六話

~数日後のダアト~





「・・・・・・・・・」
実験器具や資料と思わしき紙が机の上で所狭しと並び立つ散乱とした部屋の中、ディストは机に両肘をついて無言で頭を抱えていた。



(・・・私がネビリム先生の復活を望んでいるのは、私自身が一番よく知っています。その思いには今でも偽りはない・・・けど、ネビリム先生がホントに復活を望んでいるのか・・・わからない。私はネビリム先生が喜ぶ顔、生きて私達と再びあの時間を過ごす事こそ至上とした。なのに・・・何故だ?ジューダス・・・あの男に言われた言葉が忘れられない。あれ以来、ネビリム先生が喜ぶ顔を思い浮かべれない・・・いや、そもそもネビリム先生だったら私の行動を知ったらどう思う・・・?優しくよくやったと、私を褒めて・・・褒める?・・・先生は私を叱るかもしれない、私にばかり愛情を向けるなとジェイドやピオニー達にも気を向けて仲良くしろとたしなめるかもしれない・・・先生、先生は私にどう言うのでしょうか?蘇ったら・・・?いや、蘇る事を先生が望んでいなかったら私は取り返しのつかないことを・・・)



ディストの頭の中にネビリム復活についての疑問、ジューダスから植え付けられたそれはルーク達がダアトからいなくなって現在にいたるまでディストは答えが出ずに自問自答を繰り返していた。絶えず頭の中には似たような疑問がニュアンスを変え、起きている時は覚めない悪夢のようにリフレインしている。今までの自分の目標、それを根底から揺るがすその言葉はディストにとって何よりの衝撃で無視出来る物ではなかった。

ジェイドの痛い程痛烈な諦めろという含みの入ったストレートな言葉、その言葉は科学的根拠においての言葉。そこにはネビリム自身の意志がない、故にディストの心はネビリムが復活したいと信じて止まなかった。

だがジューダスの言葉は違う。沈痛なまでに歪められた痛々しい悲しげな言葉は、ネビリムの在りし日の姿を否応なしに思い出させた。ディストとて大好きな人物が悲しむ姿など、望むものではない。もしネビリムが復活を悲しめば?記憶を照らし合わせ、どうネビリムが感じるのか?・・・想いという人間の根底から来る物はより強い想いに揺さ振られる、ジューダスの何より強い想いは一方的なディストの偏屈な想いをネビリムに照らし合わせた事で効果を発揮していた。



・・・自分の人生の大半を費やした事に、悩み続けるディスト。とはいえ、ディストもダアトにいる間部屋にこもりきりで考え込んでいた訳ではない。
「・・・うっ」
頭を抱えていたディストの顔が、フラッと揺らぐ。
「・・・仕方ありません、食事に行きますか」
そう言いながら浮遊椅子のひじ掛けに手をやると、ディストの目の下にはくまが浮かび頬も多少細くこけている。これはディストが思考に没頭するあまり、朝も夜もなく寝る事も食べる事も忘れていた結果だ。実際数日の間に何度も意識がブラックアウトしかけていて、これは研究で度々経験していたディストはそこを契機に休憩を取る事にしていた。ちなみにライナーがいないのは、ディストが一人になりたいと人払いをしたからだ。故にディスト自身が体調を管理しなければ、命が危ないのだ。こればかりは例え考えに集中したくても、本懐を遂げる前に死んでは元も子もない。



・・・とはいえ、食事やほんの少しの睡眠を終えればまた思考の渦にディストは入ってしまう。疑問に答えを出すまではこの生活を続けるだろうディストは、暗い表情のまま部屋を後にした。









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