救う者と救われるもの 第十六話

(これで残すのはロニール雪山とアブソーブ、そしてラジエイトのセフィロトだな・・・)
火山から戻り、ダアトの建物をルーク達と歩きながらジューダスは意識せずに拳を強くにぎりしめる。
(もう少し・・・もう少しなんだ・・・)
残り三つのセフィロトを回れば自分はルーク達との旅も終わる、だがそう思えば思う程ジューダスは知らず知らずの内に想いを自らの手で消していく。共にありたい、生きたいという願望が出ないように爪が食い込む痛みで脳内から追い出していく・・・





ジューダスの内心の状態があまり芳しい物ではない。ジューダスを好意で見ているルーク達はそのことに気付いていない。
・・・このままではジューダスは心を明かす事なく、ルーク達と別れを告げる事になる。ローレライは指輪の中にいながらも、どうにか出来ない物かと思考を深くしていく。
悩むローレライは一言も言葉を発せないままで五人は教会の入口に差し掛かり、後はダアトを出ていくだけとなった五人。すると予想外の声が五人の後ろからかかってきた。
「おや?シンクにアリエッタではないですか」
「「「「!?」」」」
聞き覚えのありすぎるその口調に、フローリアンを除き声を聞いた瞬間四人が反射的に後ろを振り向く。そこには間違いなくディストが浮遊椅子に座っている状態でこちらを見ていた。
「・・・あなたたち、ここで何をしているのですか?見つけたというならこのダアトではなく、リグレット達の元に連れていくんじゃないのですか?」
だが何やら眉間にシワを寄せているディストも、はっきりと敵対の意志を見せている訳ではない。だがジューダスはダアトだからと法衣での変装を二人にさせなかった事を、自らの失態だと口の中だけで舌打ちするに留める。それと同時にどうやってディストを巻くか、もしくは言いくるめるかを考え出す。
「・・・それは関係ない事だよ、あんたには・・・僕も聞くけど、なんでここにいるのさ。ディスト」
そんなジューダスの思考とは別に、シンクが一歩前に出て探り探り情報を引き出そうとディストに慎重に話し掛ける。
「私はあなたたちからの連絡がないからあんなところで無為に待つより、ダアトに戻り研究に時間を使いたいと思ってこっちに戻ってきたんです」
「・・・ちなみに聞くけど、あんただけな訳?」
「そうですよ。リグレットにラルゴにアッシュは人数として最低限残る必要がありますからね。アッシュもあそこから出たそうな顔をしていましたが、出たいって言ってもリグレットはまず許さないでしょうね」
質問の答えにルークは苦笑し、アリエッタは人形をギュッと抱きしめる。アッシュの性格を考えてみればタルタロスに閉じこもるのは性に合わないだろう。変わってるようで心根の変わっていないアッシュにルークはらしいなと思い、アリエッタはそんなアッシュの姿を想像して体を強張らせる。
だがジューダスはそんなディストの言葉に安堵の溜息が零れる。
「ふぅ・・・シンク、神託の盾本部でゆっくり話せる場所はないのか?例えばお前にあてがわれた部屋だとか・・・」
「・・・僕の部屋を使うのは別に構わないけど、何をする気なの?」
シンクは意図が分からずジューダスに聞き返す。その声にシンクに近寄り、ジューダスは耳打ちをする。
「ディストを説得する」
簡単に一言でジューダスは述べ、シンクから離れる。その答えにシンクはジューダスに戸惑って振り向きそうになる。
「何を話しているんですか?」
だがディストの訝しげな声にシンクはジューダスの顔を見れず、ディストを見つめる形に不意になる。仕方ないと思ったシンクはジューダスの声に乗る事にする。
「僕たちがここに来ている経緯を話したらどうだって言われたんだ。報告する義務もあるし、こんなところじゃなくて僕の部屋でやったらってさ」
「そうですか。まぁいいでしょう。あなたたちが連れて来たなら私も呼び出されるでしょうしね。行きましょうか」
思いの外あっさりシンクの言葉に文句なく賛成する姿にルークは心の中で驚く。死神という言葉やジェイドという存在がなかったら意外に普通というか、さっぱりしている。ディストとはジェイドがいる時にしかほぼ会っていないルークはそう思ってしまう。
「じゃあ案内するからついてきて」
シンクの声でディストの事を考えていた状態から現実に引き戻される。シンクを先頭にした一行は今度はシンクの部屋に行くため、神託の盾本部へ向かう。










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