救う者と救われるもの 第十五話

・・・それから数時間後。




「待たせたね」
「・・・遅すぎるぞ」
上機嫌なシンクがやたら疲れが見える不満げなジューダスに話しかける様子を見て、ルークは若干苦笑する。二人に持っていた印象とは全く真逆とも言えるやり取りを見せる事に。
「・・・ルーク、何を笑っている。ギンジは無事なのか?」
その苦笑を見て取ったジューダスが、ルークに矛先を向けてくる。
「あっ。うん、さっきギンジさんはイエモンさん達のとこに連れていったよ」
「・・・本当にさっきなんだろうな?」
鋭くなるジューダスの視線にルークはハハッと渇いた笑い声を曖昧に返しながら頬をポリポリかく。その瞬間、ジューダスは皮肉っぽく口を緩めて笑みをルーク達に見せる。
「嘘はつかん事だな。ルーク」
「え・・・お、俺嘘なんてついてないよ・・・」
質問の意図が完璧に嘘を見破ったと言っている話し方に、ルークは目を泳がせてごまかそうとする。
「そうか、ならイエモン達に詳細を聞けばすぐに裏が取れる・・・アリエッタ、フローリアン。裏が取れてわざと遅れてた場合、二人に文句を言いたいだけ言っていいぞ」
「「えぇっ!?」」
その言葉に今度はシンクも同時に驚きの声をあげる。ジューダスはアリエッタとフローリアンに視線を向ける。
「今言った通りだ。確認を取りに行くぞ。二人もどうだ?嘘をつかれていたなら嫌だろう?」
言葉の端に刺がこもり、ルークはずぶりと心に来る。怒っている、ジューダスはそう言っているのだと簡単に気付ける程に。
「ルーク、シンク、そうなんですか・・・?」
「む~・・・そうなの?ルーク~、シンク~?」
眉を寄せて不機嫌そうなアリエッタに、頬を膨らませて二人に詰め寄るフローリアン。さしものシンクも追い詰められ、一歩後ずさる。ルークに至っては目を反らす事しか出来ない。
「今の内に白状すれば僕は許してやらんでもないぞ?」
そこに腕組みをしたジューダスが偉そうな態度で寛大にしてやるという。だがそこまでされて本来なら冗談ではないと怒るであろうという、シンクが先に溜息とともに折れた。
「・・・確かにごまかしてたよ」
先に折れたその様子を見てルークもあっさりと陥落する。
「・・・ごめん、三人とも」
ルークはシンクが折れる理由はよく分かる。これはジューダスからの許しを得る為ではなく、寧ろアリエッタ達の許しを得る為だ。なんだかんだで今のシンクはアリエッタ達の事を相当に気にかけている。あまり好意を持っている人間に嫌われたくはないというのは、ルークもよくわかる。ルークもそれが故に素直に認める事にした。



だがアリエッタ達は素直に白状したというのに、不機嫌さを直す様子がない。
「ひどいよ~、二人とも~」
「ひどい、です。ルーク、シンク・・・」
「えっ!?ちょっ、ちょっと!なんでまだ怒ってるのさ!ジューダスは正直に言えば許すって言ったじゃないか!」
じりじりとさっきより間を詰められて焦るシンクは急いでジューダスを見る。その視線の先のジューダスは皮肉的な笑みではなく、愉快げな笑みだ。
「僕が言ったのはあくまで『僕一人だけ』だ。二人も、とは言っていないぞ」
そう言われ二人は時が止まる。確かに一言もアリエッタとフローリアンの事は告げられていない、そしてジューダスは既に上機嫌だと一目で分かる。確かにジューダスは嘘をついていない、だが二人の脳裏には同じ文字が浮かんでいた。
((はめられた・・・っ!))
もし素直に認めなくてもより一層の怒りをジューダス含め三人で喰らう、だが今素直に認めた結果はアリエッタ達に共に怒られている。言い方がジューダスらしく巧妙なのだ。
「理由はわかりやすく言ってもらおうか、そんな事をした理由を僕たちにもわかるようにな」
そもそもジューダスはルークの表情からすぐに嘘だと理解していた。でも敢えてそうだとは言わず、アリエッタ達を煽るように真意を暴こうとした。逆襲に二人を巻き込み、逆らえなくする。ジューダスの煽りにどうして?と尚疑問の瞳をぶつけてくるアリエッタ達に、二人は嫌な敵を相手にしているという実感を感じながら言い訳に四苦八苦していった。







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