救う者と救われるもの 第十五話
「・・・そうか・・・導師はダアトに戻るか・・・」
「・・・どうしたのですか、お父様?」
イオンとアニスの様子を見ていた陛下がボツリと呟き、何やら考え込んだ感じの様子が見える事をナタリアが問う。
「・・・出来ればダアトに連れていってもらいたい人物がいるのだが・・・」
「・・・誰ですか?」
言葉に出すのもはばかられるといった気持ちがあるのか告げ出しにくそうに放たれた言葉に、イオンが聞きたいという顔になり陛下に言ってほしいと言う。
「モースだ」
「・・・え?」
そんな陛下から告げられた名前はモース、その名にイオンだけでなくナタリア達もどういう事なのかとキョトンとする。
「先程も話したであろう。ルーク達がこのバチカルに来て、ローレライとともに貴族達を説得していったと。その場には実はモースもいたのだ」
「・・・失礼ですが、反対はされなかったのですか?大詠師は」
「もちろんそれらを考慮した上で対策を講じようとした。だがローレライがモースの説得に踏み出した事でモースは押し黙り、私の意向に口を出してくる事はなかった」
「・・・モース様が・・・」
ティアが呆然としながら陛下の言葉に信じられないとこぼす。だがそれは周りも同じで、表情が有り得ないと訴えている。
「ローレライが何をしたのかは知らんが、モースはわしの宣言以降にも和平に対して口を出す事はなかった。寧ろ何かに悩んでいたようで、あまり部屋から出て来る事もなく、ぶつぶつと独り言を呟いていたと食事を運んだメイド達は噂をしていたようだ」
何があったのか、ローレライの説得は。モースの変貌ぶりに一同は思う。
「この変化を受けわしはモースに一度どうだ?と問い掛けた。心境に変化は現れたか、と。そう言ったらモースはまだ分からない、悩んでいると返されたよ。ユリアの意志とは何だったのか、預言の意義とは何だったのかとわしに問い掛けるように自問自答した姿も見た。・・・モースもまた・・・変わり始めているとわしは判断した。だからこのままバチカルに考えが決まるまで置いておくのもいい、だがダアトに戻ってもらい導師とともに考えながらでもこれからの世界を大詠師として導いてほしいともな」
陛下は揚々ととまでは行かないがモースの事は信じてもいいとつらつら述べている。だが一転陛下は表情を暗くする。
「だがこれは賭けでもあるのだ。モースがまた預言絶対を掲げれば今度こそモースは敵にしかならない。そんな中でモースをダアトに戻してもいいものかという懸念がある、預言を主とした地にな」
そう。今どちらに傾くか分からないモースを、ダアトに戻すのは賭けだった。モースが心変わりするかどうかは損と得の幅が限りなく大きい。そしてダアトは彼自身といってもおかしくない、彼を作った地。モースが再び預言を繁栄に導く物だと信じて疑わないきっかけになりかねなかった。
全てが終わるまではバチカルに置いておくのがいいのではないか?はっきりとモースの扱いに困っていると告げられた一同はイオンに視線を持っていく。
「・・・僕はモースと一緒にダアトに戻ります」
出された答えは共に帰る。イオンらしい言葉にある意味で皆がホッと安堵を含んだ溜息を出す。危険が隣り合わせな現状で、こういう言葉を出してこそイオンなのだから。
「そうしてくれるというならありがたい。だがこういう役割を押し付けておいてなんだが、これだけは念を押しておく。せめてルーク達が全て終わらせるまではモースに邪魔をされないように、モースをよく見ていてくれ」
「わかりました。それにこれはダアトの導師である僕が責任を持って取り組む問題です。押し付けなんかではありません」
曇りなき笑顔で陛下にやらせていただきますとイオンが宣言する。自分がやるべき事は定まったと語るその決意に満ちた顔には、異論を唱える言葉が出て来るはずがなかった。
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「・・・どうしたのですか、お父様?」
イオンとアニスの様子を見ていた陛下がボツリと呟き、何やら考え込んだ感じの様子が見える事をナタリアが問う。
「・・・出来ればダアトに連れていってもらいたい人物がいるのだが・・・」
「・・・誰ですか?」
言葉に出すのもはばかられるといった気持ちがあるのか告げ出しにくそうに放たれた言葉に、イオンが聞きたいという顔になり陛下に言ってほしいと言う。
「モースだ」
「・・・え?」
そんな陛下から告げられた名前はモース、その名にイオンだけでなくナタリア達もどういう事なのかとキョトンとする。
「先程も話したであろう。ルーク達がこのバチカルに来て、ローレライとともに貴族達を説得していったと。その場には実はモースもいたのだ」
「・・・失礼ですが、反対はされなかったのですか?大詠師は」
「もちろんそれらを考慮した上で対策を講じようとした。だがローレライがモースの説得に踏み出した事でモースは押し黙り、私の意向に口を出してくる事はなかった」
「・・・モース様が・・・」
ティアが呆然としながら陛下の言葉に信じられないとこぼす。だがそれは周りも同じで、表情が有り得ないと訴えている。
「ローレライが何をしたのかは知らんが、モースはわしの宣言以降にも和平に対して口を出す事はなかった。寧ろ何かに悩んでいたようで、あまり部屋から出て来る事もなく、ぶつぶつと独り言を呟いていたと食事を運んだメイド達は噂をしていたようだ」
何があったのか、ローレライの説得は。モースの変貌ぶりに一同は思う。
「この変化を受けわしはモースに一度どうだ?と問い掛けた。心境に変化は現れたか、と。そう言ったらモースはまだ分からない、悩んでいると返されたよ。ユリアの意志とは何だったのか、預言の意義とは何だったのかとわしに問い掛けるように自問自答した姿も見た。・・・モースもまた・・・変わり始めているとわしは判断した。だからこのままバチカルに考えが決まるまで置いておくのもいい、だがダアトに戻ってもらい導師とともに考えながらでもこれからの世界を大詠師として導いてほしいともな」
陛下は揚々ととまでは行かないがモースの事は信じてもいいとつらつら述べている。だが一転陛下は表情を暗くする。
「だがこれは賭けでもあるのだ。モースがまた預言絶対を掲げれば今度こそモースは敵にしかならない。そんな中でモースをダアトに戻してもいいものかという懸念がある、預言を主とした地にな」
そう。今どちらに傾くか分からないモースを、ダアトに戻すのは賭けだった。モースが心変わりするかどうかは損と得の幅が限りなく大きい。そしてダアトは彼自身といってもおかしくない、彼を作った地。モースが再び預言を繁栄に導く物だと信じて疑わないきっかけになりかねなかった。
全てが終わるまではバチカルに置いておくのがいいのではないか?はっきりとモースの扱いに困っていると告げられた一同はイオンに視線を持っていく。
「・・・僕はモースと一緒にダアトに戻ります」
出された答えは共に帰る。イオンらしい言葉にある意味で皆がホッと安堵を含んだ溜息を出す。危険が隣り合わせな現状で、こういう言葉を出してこそイオンなのだから。
「そうしてくれるというならありがたい。だがこういう役割を押し付けておいてなんだが、これだけは念を押しておく。せめてルーク達が全て終わらせるまではモースに邪魔をされないように、モースをよく見ていてくれ」
「わかりました。それにこれはダアトの導師である僕が責任を持って取り組む問題です。押し付けなんかではありません」
曇りなき笑顔で陛下にやらせていただきますとイオンが宣言する。自分がやるべき事は定まったと語るその決意に満ちた顔には、異論を唱える言葉が出て来るはずがなかった。
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