救う者と救われるもの 第二話

「戻りましょう。夜の渓谷は危険です」
今日はルークの成人の儀が行われている。未だ帰らぬ英雄ルーク・フォン・ファブレの成人を祝う為に。しかしルークは死んだとして扱われ、彼の墓の前でしめやかに行われる実質的な葬式と同意儀のものだった。彼の帰還を諦めたキムラスカが行う葬式・・・しかし、彼と旅をした仲間達は違う。未だ彼の帰還を待ち望んでいる。実際には仲間達は成人の儀の参列を求められていた、しかしそれを断った。彼の帰還を信じているために・・・

その気持ちに仲間達は一片のズレもなく、ルークの本当の意味での成人の祝いをしたいということで葬式には参列せず、旅の始発点タタル渓谷に集まったのだ。未だ帰らぬルークを待つために・・・


ジェイドがもう潮時だろうと戻る事を促した。その瞬間だった。
‘‘カッ’’
「「「「「なっ!?」」」」」
彼等の目の前に現れたのはもうこの世界には稀薄な筈の第七音素を主とした光球。それが天から落ちてきたのだから彼等はただ驚愕するしか出来なかった。

「・・・ローレライ・・・何をし・・・」
「「「「「アッシュ!?」」」」」
天から落ちてきた光球がなんなのかと警戒していた仲間達。すると光球はじょじょに光を落としていき、人の形になっていった。更にその光が完全に消えてしまい、完璧な人間だけがそこに残った。それがアッシュである。


「アッシュ・・・本当にアッシュなのですか?」
突然落ちてきたアッシュにジェイドさえもが動揺しているなか、いち早く動揺から立ち直ったナタリア。しかし、彼女も突然現れたアッシュに嬉しいという気持ちよりも戸惑いが強いようだ。
「・・・ああ、ナタリア」問掛けられたアッシュも実際には混乱していた。しかし自分がここに来た理由、それがこの場にいる面子を見て唐突に理解出来た。
「・・・そういうことか、ローレライ」
「・・・アッシュ?」
「ナタリア、悪いが俺は帰って来たんじゃない。寧ろ別れを言いに来たんだ」
その言葉を聞いた瞬間にナタリアが何故だと詰め掛けようとした。しかし次に我を取り戻したジェイドが二人の間に入り、アッシュに向かい合う。
「落ち着いて下さい、ナタリア。訳なら私がたっぷりと聞き出しますから♪」
声はあくまで楽しげに言っているように聞こえるが、まともに顔を見ているアッシュからすれば表情は真面目そのもので逃がしてなるものかという雰囲気が漂っていた。
「・・・訳なら今話す」
話さなければ離れることは出来ないと判断したアッシュは今までの経緯を語りだした。




「・・・という事で俺はローレライに報告がてら別れを告げてこいと言われたんだ」
アッシュの言葉に黙りこんでしまう一同。
「もうアイツは帰って来れない、なら自ら行くしかねぇんだ。俺はアイツに・・・ルークに借りを返す為に過去に戻る」
じゃあな、そう言いアッシュは立ち去ろうとした。
「・・・待って、アッシュ。私も連れて行って」
するとティアが声を上げ、アッシュを引き留めた。
「・・・何故だ?」
「ルークを助けたい・・・それだけじゃあ駄目かしら?」
アッシュはティアの眼差しを見た瞬間、説得は無駄だと確信した。しても時間の無駄だろうと。
「・・・俺もいいか?」
「私も参りますわ!!」
「アニスちゃんも~」
ティアに次いでガイ、ナタリア、アニスがまた戻りたいと言い出した。
「おやおや、皆さん青春ですか?お若いですね~」
当然ジェイドも、という流れを無視して呑気な声で皆を茶化す。
「青春を感じるのは戻ってからにして下さい、ではアッシュ行きましょうか」
「旦那・・・行かないんじゃなかったのか?」
「誰も行かないとは言っていませんが?」
アニスが小声で「うわ、大佐変わってない」というのが聞こえた。
「・・・全員行く・・・でいいのか?結局?」
アッシュが周りを見渡しながら聞くと、皆うなずいている。
「ならば・・・ローレライ!!聞いての通りだ、俺達全員を過去に送れ!!」
アッシュの言葉が辺りに響き渡った瞬間、タタル渓谷にいた人間全員が光に包まれる。そして光が輝きを納め収縮してなくなると、タタル渓谷には誰もいないように皆消え去っていた。


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