救う者と救われるもの 第十四話

「信じられるはずがないであろう!いきなりあのような物を見せられても!」
『・・・何・・・?』
勢いのよい否定にローレライは悲しげに声を潜める。やはりか、駄目だとローレライは内心で思うがまだ諦めきれない事に説得を続ける。
『・・・今のがユリアだと信じないのはお前の勝手だ。だがあれだけお前は預言に対し、嘆き悲しむ姿に何かを感じなかったというのか?・・・何も・・・何も・・・』
「・・・何を言いたいのだ、貴様は」
『モース、本当にお前が人の歴史の繁栄の為に預言を残したというなら・・・お前は犠牲が出るように預言を残すと思うか?もし、自分が預言を残す立場にいた場合そうするか?』
「・・・」
ここに来て、初めてモースはローレライの言葉に沈黙と黙考の様子を見せる。もし何も知らずに同じ質問をしていた場合であったなら、『繁栄には必要な犠牲!』と迷い無く言い切っていたであろう。激情で返される事がなかった事に、ローレライは目に見える変化を感じ取る。
『考えてみよ、モース。そなたとて人が命を訳も無く失うのは心苦しい物ではないか?極端な話だが、そなたも人を導く為の立場にいる身だ。ダアトの信者が預言だからと言って全員死ねと言われたら、そのまま素直に信者が死ぬ場面を心にさざ波一つ立たさず見学できるか?』
「・・・っ」
モースに畳み掛けるようにローレライは続ける。ここで機を逸したらモースはもう永遠に預言の事を神格化するだけでルーク達と対立して終わる事になる。それだけは避けねばならない。動揺に付け込むように言われた言葉にモースは息を詰まらせる。
『何も・・・今すぐでなくてもいい・・・預言を全てと断じる事だけは止めてくれ。その存在に少しでもいいから疑問を覚えて、他人の気持ちに立って自らの思考を持って次代を作る事を考えるようになってくれ・・・』
「・・・・・・」
モースとて預言だけが全てという訳ではない。預言を持って‘こそ’人を繁栄の栄光に導けると信じている。だが以前は預言の事を疑問に思える機会もなく、暴走する結末を迎えてしまった。だが今は預言を多少ではあるが疑問に思ってくれている。導く立場と併せれば、色々と考えざるを得ない状況だ。
『・・・結論を今すぐ出せなどとは言わん。だからバチカルでしばらく時間をかけて考えてくれ、預言の意義を。そして・・・ユリアの想いから溢れた涙の意味が本当に人の為だと気付いてくれ』
後は時が解決してくれる事を願い、ローレライはモースとともに意識の外へ出ようと力を使う。これ以上はモースの良心に委ねるしかないと判断したローレライは光と共に姿を消した。










そして会議場で他の貴族達を説得し終わったルーク達の元に、ローレライが姿を表す。
「ローレライ・・・どうだった・・・?」
『とりあえずは大丈夫だと、思う。だがはっきりとそうは言い切れんからしばらくバチカルでモースの様子を見ていてくれないか?キムラスカ王よ』
「うむ、わかった」
ルークの確認の不安げな言葉に慎重にまだ分からないと述べ、陛下にいざとなったらという時を頼むと告げる。
『そちらはどうなのだ?ジューダスよ』
「あぁ上手くいった。あの後全員がどうだと言ったら周りはすぐに肯定で返した・・・とりあえずはお前の様子からすればモースのことも大丈夫だろう。バチカルでやるべき事はこれで終えた。次のセフィロトに行くぞ」
簡潔に返されそして急ぐべきだと言うジューダスに、ローレライもうむと首はないが頷く。
「それではルークよ。これを渡しておく。先程皆が来るまでに書いておいたものだ」
いそいそと部屋を出ようと扉に向かう前に、陛下がルークを呼び止め懐から手紙を取り出す。





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