救う者と救われるもの 第十四話

・・・そしてルークの経験を見終わった貴族達。未だ光の中にいるモースを除き、解放されたその顔はやはり信じられないと呆然としてしまっている。



「皆の者、今見たであろう光景。それは嘘偽りなき真実であった」
場を制するべく口に出された陛下の言葉に、誰もが口を挟めない。ファブレ公爵にしても同様だ。
「預言に従えば確かに繁栄は得られるのであろう。だがそれは一時の物でしかない。そして預言通りに動こうともそれは結論としては不可能に終わる物となる・・・何故なら預言を覆そうとする別の存在、ヴァン・グランツがいるのだからな。ヴァン・グランツの望みは預言依存の世界の改革、その結果で今生きている人間達を全て殺してしまおうとも奴は後悔はせんだろう」
そこで貴族達は憎しみにも似た炎を燈すヴァンの目を思い出し、陛下の言葉に気迫とともに下がる。
「・・・ルークは今見た全てを体験し、そしてより良い世界を作る為に過去へと戻って来た。ローレライからその意志を受け取り・・・ローレライが遣わしたからこそわしはルークを信じた、という訳ではない。ルークはわしに生ある者を救いたいという想いをぶつけ、それが心根から来ていると感じたからこそわしはルークを信じた・・・そこでそなたらに問う。今起きた事全てを引っくるめて、わしは改めてマルクトとの同盟と預言の廃止を行うことを宣言する。わしの言葉に賛同をしてくれる、わしを信じてくれるというならこの案に賛同してくれ。でなければ遠くない内に世界は滅ぶ事になるのだ・・・」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる陛下。身分など関係ない、ただ同志が欲しい。今まで起こした全部の事を水泡に帰さない為にも、ただ・・・



その思いに、公爵が釈然とはしきれていない表情ながらも自らの考えを述べるために口を開く。
「・・・ホドの戦争は気持ちのいいものではありませんでした。あれは預言に詠まれていた、繁栄の為には仕方がなかったと思わなければ気がどうにかなりそうでした。だが今陛下がおっしゃっているのはそういった預言の実現の為の犠牲者を無くそうという事、それでよろしいのですな?」
自らの苦い思い出を語り、公爵は陛下にそうなのかと確認を取る。
「うむ。事実を知ってしまった今、全てを変えねばならん。預言から人は脱却するべき、それが最善の形で行えるならばこそ尚更の事だ」
暗い顔に負ける事なく、きっぱりとまっすぐ頭を上げ陛下は公爵に強く返す。



答えを迷いなくすっぱり返された公爵も、返答を受けてどうしようかと考えていた答えが出た。
「・・・わかりました。私は陛下に協力致します」
「・・・公爵?」
預言のない世界を作るべきだと公爵もかつての経験から決意を固めた。
一番最初に賛同の声を上げた公爵に戸惑いの声が上がる。公爵が、なら自分は・・・と迷う声がざわざわと響きだす。
そのざわめきは預言に叛旗を翻す事を怖がっているから、公爵が確固たる意志をもって陛下につくと言ったからどうするべきかと考えているからである。だがローレライという存在に強く否定も出来ないので、そのざわめきは預言に対して恐怖があるというだけであろう。



後一押しすればこちらになびいてくる、ジューダスと陛下の二人がそう場の空気から判断するとローレライが三人に小声で話しかけて来た。
『我はモースの意識の中に入っていく。後はお前達がこの者達を説得しておいてくれ』
「・・・え?」
『頼んだぞ』
困った声を上げるルークに詳しい説明をする事なくローレライはモースの光の元へ同化した。何やら緊迫したように一方的な言葉に、三人はローレライの意図を読み取れなかったが状況を納めるべきだと互いに顔を見遣り、貴族達に視線を向けた。








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