救う者と救われるもの 第十二話

「確かに僕もアリエッタの言う通り・・・イオンのレプリカさ。そしてザレッホ火山に落とされるはずだった・・・けど、僕は火山に落とされる前にヴァンに助けられたんだ」
「総長に・・・?」
「そうさ。けどヴァンは僕達を心配だからと助けに来たわけじゃない。あいつのやろうとしていることの手駒にしようと僕の所にやってきたのさ」
「嘘・・・総長がそんな・・・」
「けど、僕はそのヴァンの誘いに乗った・・・こんな身勝手な世界なんか滅びればいい・・・そう思ってあえてあいつの手を取って生きる道を選んだんだ」
「シンク・・・駄目です、そんな・・・」
「お前には絶対分からないよ!棄てられて、役割すらも果たせず存在を許される事のない苦しみなんかを!のうのうと何も知らずイオンの事ばっかり思ってた奴なんかに!」
全ての憎しみをアリエッタにぶつけるシンクの声は同時にやり場のない悲しみが篭っている。今までの彼には見られなかった変化に、ルークは多少の違和感を覚える。
そうルークが見ていると、言葉が止まった二人の間にフローリアンが近付いていく。
「フロー・・・」
「待て、ルーク」
急いでフローリアンを制止しようとルークが近づこうとするが、ジューダスがルークの肩を掴み首を振る。
「三人の間で話し合わせるべきだ。僕たちに話を止める理由はない」
「・・・うん」
邪魔をしてはいけない、ジューダスの顔はそう語っている。ルークはその顔に、黙ってその成り行きを見るべきだとジューダスと同じく見の体勢に不安げな顔で入った。



「・・・シンク・・・もう止めよう?」
言葉が止まったシンクにフローリアンは悲しげに諭しに入る。
「・・・なんで・・・なんでお前はそんな事が言えるんだ!お前も火山に落とされたんだろ!?なら僕みたいに世界に嫌気がさすだろう!なのになんでお前はそんな顔が出来る!」
慈しみ、同情とは違う自らへの同調。自分と同じ、いやそれ以上に酷い目にあったというのに何故自分とは違う目を向けてくるのか?不安にかられたシンクの声はそうだろうと、同調してくれと声を一層荒げる。
「・・・どう言葉にすればいいのか分かんないけど、多分シンクは誰かの温もりを知らなかったから、だから周りの人達に怖いって気持ちを隠す為に、世界が嫌いだって言っちゃうんだと思う・・・」
「僕が・・・怖い!?」
「うん・・・僕もルークに助けられた時、最初怖かった。また何かされるかも、もしかしたらって。けど僕はルークの事、優しい人だって本当に心配してくれたからわかったから安心出来たんだと思う。だから僕、ルークも世界も好きでいられてるんだ。だから・・・シンクは安心したいから、逃げてるんだ」
「逃げてる、だと・・・!?」
「怖いから人を拒否して逃げて、世界が嫌いだって言っちゃうんだ!シンクは!そんなんじゃどんなにヴァンって人と行動しても怖くて逃げたまんまの状態が続くだけだよ!」
「・・・!うっ・・・うるさいうるさいうるさい!!黙れ黙れ黙れぇ!!」
フローリアンのシンクへの言葉はなによりも辛辣、だがそれは無垢なる者から見た正直なシンクの印象。シンクはそれをつかれ、アリエッタを払いのけ頭を振って手で頭を抱え込みながら地面に肘をつく。
「僕は・・・僕は怖くない・・・僕は逃げてなんかいない・・・」
顔は見えない、だがシンクから聞こえる声は否定しようのない不安さに満ち満ちている。その声にフローリアンはシンクに近付き、被さるようにシンクを抱きしめる。
「シンク・・・逃げるの、もう止めよう?不安なら僕じゃ足りないかもしれないけど、僕がシンクに温もりをあげるから・・・だから、強がるのはもう終わりにしようよ?ね?」
するとそのフローリアンの声に、アリエッタが更にシンクに近付いて被さるように抱き着く。
「・・・確かに、アリエッタ、何も知らなかったです。けど、それでもアリエッタ、シンクの事知ったからほっとけないです。アリエッタも足りなくても温もり、シンクにあげます。だからもう・・・やめて、シンク・・・!」
「・・・うっ、ぐっ・・・うわぁぁぁぁぁぁ!」



・・・何かの呪縛が解けたかのように、ひたすらに強気な姿勢を崩さなかったシンクの絶叫ながらの涙声。ルークとジューダスはシンクがようやく救われたのだと共通で理屈抜きに理解した。






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