救う者と救われるもの 第十二話

だが勝負の流れは緩やかに一人の方に傾きつつある。形勢が不利なのは・・・





(ちっ・・・やりづらいね・・・)
シンクは一進一退の攻防をジューダスと繰り広げながらも、焦りを知らず知らず感じていた。
(アリエッタを連れていくにはこいつを倒さないといけない・・・けどここまで必死にアリエッタを庇われたらもうアリエッタは離反したって見た方がいい。けど、こいつ素直に僕を帰す気はないんだよね。一瞬でも隙を見せたら確実に手痛い一撃を喰らうだろうし・・・)
シンクの頭には一つ、撤退の文字が浮かんでいる。アリエッタの離反、そう確認したから早くリグレット達の元へと戻るべき。だが目の前にいるジューダスは逃がしてくれるような気配は全く見えない。いっそここでジューダスを倒すというのは既に戦闘で力量を理解しているから難しいとシンクは思っている。
どのような行動を取ればジューダスから無事に逃げおおせるか、迷いつつあるシンクの動きは確実に鈍りつつあった。






「クッ・・・」
徐々に動きが悪くなっていくシンクをジューダスが見逃す訳もなく、一層攻めの手を強める。シンクはたまらず多少の怪我を覚悟の上、無理矢理バックステップで距離をとる。ここで初めてシンクの体をジューダスの剣が捕らえ、胸や腕に服を切り裂いたかすり傷程度ではあるがダメージを与える。
飛びのいて体を屈める状態になったシンク、この攻撃が出来ない状態。ジューダスはすかさず追撃に行く。するとシンクから声が届いて来た。
「アカシック・・・!」



(全力で放ってすぐに逃げる・・・!)
シンクはこの一撃は範囲のギリギリ内側程度故に攻撃が避けられて当たらないだろうと感じている。だがアカシックトーメントはあくまでも囮、一定の隙さえ作れればダメージを与えられなくてもシンクは構わなかった。



「シンク!」
だがトーメント、とシンクが言い切る前にその空間に声が響いて来た。
その声にシンクは視線を向ける。視線の先には扉から真っ先に出て来て慌てて声を上げたアリエッタ、続くは手を引かれて来たルーク。そして・・・
「・・・嘘・・・」
最後尾に現れたのは走って来て疲れたのか肩で息をしているフローリアン。その姿を見たシンクはただひたすら呆然と信じられず嘘と呟く。導師として活動しているイオンは間違いなくバチカルにいるはず、更にイオンの代わりにと生み出された時のままの服装。シンクは一瞬で自分以外の破棄されたレプリカイオンだと理解した。
「・・・月閃光!」
それは秒数で言えば一、二秒程度の時間。シンクがフローリアンを凝視していると、突っ込んでいったジューダスは自らの勢いを止める事が出来ずに三日月の形を描く月閃光を放ってしまう。
「・・・しっ、しまっ・・・!?」
ジューダスが下から切り上げてくる様子に、慌てて体を斬撃から離そうと身を動かそうとする。だが、体を屈めアカシックトーメントを放とうとして集中していた状態で素早く動けるはずもなかった。




‘ガキィン!・・・カラン、カランカラン’
・・・どうにか顔を背ける事でシンクは月閃光はかわすことが出来た、だが・・・



「シンク・・・仮面が・・・」
月閃光が捕らえたのは仮面の先端、弾き飛ばされた仮面の下にはただ目を見開いて驚きを隠せないシンクの顔をルーク達は見た。






7/15ページ
スキ