救う者と救われるもの 第十二話

「え・・・ここは・・・イオン様のお部屋?」
光に包まれた二人が目を開けると、そこは今までの殺風景な白い空間ではなくダアトのイオンの私室で浮かんでいるというものであった。
「あ・・・部屋に誰か入って来た」
フローリアンはアリエッタと違いその光景に驚く事なく辺りを見渡していると、扉が開く。
「・・・総長にモースとディスト?どうしたんだろう?」
部屋に入って来たのはヴァンとモースとディスト、だが三人は部屋に入っても立ち止まる事なくイオンの寝室の扉まで真っすぐに向かいノブを回す。扉を開けて寝室に入る三人を追い掛けようと二人も後を追い掛ける。するとそこには二人が予想していなかった光景が広がっていた。



「ああ、あなたがたですか。もしかして返事を聞きに来たんですか?」
イオンの私室の寝室に入ると、どこか諦めを感じさせる笑みで少し今より小さいイオンがベッドの上で三人を出迎える。
(え?なんなんですか、これは?)
(シー、何か言おうとしてるから静かにしよ?)
(はい)
事情を把握出来ずにアリエッタは声をあげるが、フローリアンは話しを聞こうとアリエッタに促す。
「はい、もしイオン様が今からでもいいというならレプリカを作るための情報をいただきたいのですが」
静かになった二人の間にモースの声が響いてくる。
「ええ、構いませんよ。僕の体もそう長くは持たないと自分でも理解してます。そろそろあなたがたを呼ぼうと思っていた所です」
(イ、イオン様・・・?)
何をイオンが言ってるのかわからず、アリエッタは惑うばかり。だがそれでも話は続く。
「準備はもう出来ていますか?ディスト」
「はい、この通り」
手元に持っていたカバンをディストが開くと、そこには何やら専門的な用具らしきものがズラッと並べられている。
「なるほど、ならモースは部屋で待っていて下さい。後でヴァンをそちらに向かわせますので経過はヴァンから聞いて下さい」
「はっ、かしこまりました」
イオンからの言葉にモースは礼をして、部屋を後にする。
「では導師、早速よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
モースが去ったのを確認すると、ディストはイオンに近付く。そして何やら器具の中の一つを取り出すとイオンを触診しだす。



そして数分程無言の時間が続くと、ディストはイオンから嬉しそうな笑みを浮かべながら距離を空ける。
「これで終わりましたよ、導師。では私はさっそく研究所へと向かいますので失礼しますよ」
「ええ、ご苦労様です」
ディストは軽く頭を下げてイオンに礼をすると、急いでドアを開けて部屋を後にする。そして部屋に残されたのはイオンとヴァンだけになり、イオンはヴァンへと寂しそうな笑みを浮かべる。
「これが僕の導師としてではなく、イオンとしてやれる最後の事なんですね」
「はい、そうです」
「・・・だからヴァン、これは僕からあなたへの最後のお願いになります。聞いてはくれませんか?」
「は・・・なんでしょうか?」



「アリエッタには僕の死は隠してもらってよろしいでしょうか?」



(!?嘘っ!嘘です!だってイオン様は今も・・・生きて・・・)
イオンの言葉にアリエッタは信じられないと首を思いきり振る。だがイオンの切なく紡がれる言葉は続いていく。
「・・・彼女は僕がいなくなればダアトに頼れる人物はあなたしかいなくなります。ですからあなたの配下にアリエッタを配置出来るように取り計らって欲しいんです」
「・・・それはよろしいですが、いいのですか?アリエッタに本当の事を伝えなくても」
「レプリカの僕との掛け合いを今までのように自然にアリエッタが出来るとはあなたも思っていないでしょう。これはアリエッタだけではなく一般市民にも知られないようにするための当然の処置です。ですからモースには適当な導師守護役をアリエッタの代わりにするよう、お願いして下さい」
その言葉にアリエッタは愕然とし、下を向いて俯く。自らの導師守護役外れはイオン本人が言っていた物なのだと。だがそう頭を下げたアリエッタの耳に苦渋の想いが篭ったイオンの言葉が耳に響いてきた。



「それに・・・なにより僕は僕が死んだ事でアリエッタを悲しませたくはないんです」





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