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『ただいまー………。』



玄関の扉を開けて廊下と玄関の境に座って靴を脱ぐ。
座るとどっと疲れが身体にのしかかる。鞄を投げるように乱暴に置いて身体に鞭打って立ち上がる。
そのタイミングでリビングの扉が開いていつも通りの愛らしい彼女が顔を覗かせる。
カズキと目が合うと目を大きく開いて輝かせている。トコトコ走り寄って来てきゅっと腕に抱きついてくる。
なんて可愛いんだ、と思いながら愛おしそうに見つめる。ガーディとは違って今すぐ抱きしめてこの愛情をキルリアに刻みたくなる。
キルリアは腕を少しだけ引っ張ってリビングへと誘導する。リビングに近づくにつれてご飯のいい香りが鼻を刺激し、その刺激はお腹を鳴らす。
リビングを通るとキルリアは腕から離れてテーブルの椅子を引いてぽんぽんと叩いた。腕から温もりが消えたことに少し残念さを感じながらカズキが椅子へと座るとキルリアはるんるんと軽快に歩いてキッチンへと入っていった。



「あらカズキおかえり。一言くらい声かけなさい」


『んー。キルリアが楽しそうにここまで連れてきてくれたんだよ』


「あら、クスクス…まぁ今日はそうね」



母親がテーブルの上にテーブルクロスを敷いて人数分のそれぞれの食器を用意する。キッチンを気にしてのぞき込んでいるカズキを微笑ましく見ながら近くに用意してあったコーヒーをカップに注いでカズキに差し出す。
ズズ、とコーヒーをすすってまたキッチンを覗き込む。
その時覗き込んだタイミングでキルリアがおぼんを持ってキッチンから出てきたがそのキルリアにカズキは目が離せなくなった。歩くたびにゆらゆらと揺れるレースに華奢な身体のため少しだけずり落ちている肩、そう、エプロン姿のキルリアが一生懸命おぼんを慎重に運んでいる。
テーブルの近くまで運んで母親に渡す。母親はお礼を言ってテーブルにおぼんを置いてそれぞれの場所に配る。カズキの目の前にも置かれてじっと見つめる。
小さい耐熱容器に蓋がされている。暖かい料理のようだ。
キルリアも自分用の椅子に座って母親も席に掛ける。



「いただきます」


『いただきます』


「キルルゥ」



母親の掛け声のあとに2人も手を合わせてカズキは蓋を開ける。
ふわっと湯気が立っていい香りが顔を覆う。湯気が徐々に消えて中が見える。どうやらビーフシチューのようだ。
もちろんキルリアは食べれない為ポケモン用のご飯をスプーンを使って食べている。だがチラッチラッとカズキの方を見ていた。
スプーンを手に取りカズキが一口食べる。キルリアはそれを見つめる。



『うまい…』



「ふふ、このビーフシチューキルリアと一緒に作ったのよ」



『え?キルリアが?』




キルリアの方を見ると照れくさそうに下を向いている。
母親はニコニコ笑ってキルリアの頭を撫でる。キルリアがどういう風に手伝ったか、キルリアがどうして手伝うことになったか、そんな話をしながら食事をした。
カズキはキルリアの本心を知り少し嬉しそうに笑いながらビーフシチューを食べていた。
そして、食事を終えてゆったりとした時間が流れる。




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