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「カズキ……。」
手を叩かれた父親は驚いたような表情でカズキを見ている。
母親の方は変わらず険しい表情でカズキとキルリアを見ていた。
キルリアは急に抱き寄せられて戸惑っていたがカズキの方へと向き直りカズキの太ももに登り口元に手を添える。するとじんわりと赤い液体がキルリアの指に滲んできた。
それを見つめて視線をキッとカズキを向けテーブルの上にあるティッシュ箱に手をめいっぱい伸ばして何枚か抜き取りカズキの口に詰め込むように押し当てた。
一生懸命なキルリアにふにゃっとカズキの表情が和らいでキルリアをぎゅうっと抱きしめるカズキ。
そんな2人を両親は顔を見合わせて複雑そうにまた2人を見つめている。
「か、カズキ。キルリアから離れなさい」
父親はおずおずと切り出した。
この戸惑いはあまりに親密すぎる2人を危ないと判断したのだろう。
そしてカズキの表情からそれが本気だということも察したのだろう。
父親はまたキルリアの元へと寄って手を伸ばす。
『…2人は…俺のすること成すことを何でも否定したがるんだな』
「そ、そんなことは…」
『じゃあなんだってんだよ!!!!俺の生き方も俺達のあり方も俺が決めたっていいだろう!!!!』
「っ……カズキ、それは」
カズキは大きくため息をついてキルリアを抱き上げる。
小柄なキルリアは片腕に座るような形で抱き上げられた。
そして立ち上がって部屋を出ていこうと歩き出した。
途中ですれ違う父親を軽蔑したかのように睨みつけながら。
そんな父親は信じられないというかのような視線で2人を交互に見る。
母親だけはただただ黙って眉間に寄ったシワを抑えていた。
『キルリア、ごめんな。気を遣わせたよな。』
部屋に戻ったカズキは先程の荒ぶった様子から一転して優しく割れ物を扱うかのようにキルリアをそっとベットへと降ろす。
普段ベットやソファなどに座らないキルリアは慌てて降りようとする。なんとなくこういうものは人間だけが座ったりするものだという認識があるからだ。
キルリアが降りようと足を伸ばしたとき、カズキはキルリアの腕を掴んでそのままベットへと押し倒す。ぽふっと軽く音がして容易くキルリアはベットへと倒れた。
一瞬何が起きたかわからなかったキルリアだが、すぐ目の前にカズキの顔があるのと全身を包む柔らかい感覚で何が起きたか察しばたばたともがいた。
2人のいる空間ではキルリアが抵抗する布が崩れる音、2人の息遣いだけが聞こえる。
キルリアは珍しく何も喋らない。鳴き声も出さない。
ただ切なそうにカズキをじっと見つめている。
『…キルリア、いつもみたいに喋ってよ?もう2人きりなんだから…』
キルリアに跨り包み込むように抱きしめる。
シャンプーの匂いがキルリアの髪から微かに香り先程まで荒ぶっていた心が落ち着く。
白い頬に唇を近付け優しく触れる。
マシュマロのように柔らかく滑らかな頬は微かに赤みを帯びていき、恥ずかしさなのかうるうると涙は今にも溢れそうだ。
唇を離してキルリアを見つめる。キルリアも涙を溜めながらカズキを見つめている。
『キルリア…俺やっぱりキルリアのこと好き』
そう言ってキルリアを持ち上げてぎゅうっと抱きしめる。先程の優しさとは違って力強く何者にも取られないように抱きしめる。
キルリアはいろいろな出来事に混乱を隠せない、ただ身体が勝手に火照りだして胸は今までにないくらいドキドキと鼓動を早めている。ぐるぐると思考はわからないくらいにぐっちゃぐっちゃになっているがこれだけはわかる。
「ぁあ、マスター…今私すっごい幸せです…」
キルリアはカズキの背中に手を伸ばして胸の中に顔を埋めてポロポロ涙を流しながら笑った。心の中に芽生えた感情は隠せないくらいに大きく育って幸せという形で花を咲かせる。
この日2人は特別になった。
ポケモンと人間であれどお互いに特別な感情を抱き、それを貫き通すことを選んだのだ。
過去の僕と、彼女(2)
過去の僕と、彼女(4)
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