page2
『ちょっとしみるかも』
「はいぃ……。」
サーナイトの細い腕を持って薬を染み込ませたガーゼをトントンと叩く。
ポケモン用の傷薬は授業で習った。ガーディにも使ったことがあるがガーディはしみるのが苦手らしく散々暴れまわって時間をかけてようやく塗り終えていた。
それに対してサーナイトは我慢強く目をぎゅっと瞑って耐えていた。
その様子は可愛らしくもあったがずっと耐えさせるわけにもいかないので真面目に薬を傷口に塗りたくる。
『はい。終わり。すぐに元気になるよ』
「ありがとうございます、マスター」
サーナイトはニコッと笑ってお礼を言う。
その表情を少し見つめて照れながらカバンの中に治療に使ったものを直す。
立ち上がってお尻の砂をはらう。カバンから地図を取り出して目的地までの距離と道順を確認する。
2人はまた手を繋いで歩き出した。
『とりあえず、ここの街でどっか泊まれるところ探そうか』
「そうですね」
しばらく歩いた頃、ひとつの街へたどり着いた2人。何度か休憩を挟んだものの疲労はどんどんたまっていた。
ショップへ立ち寄って道具をいくつか調達をしていると、サーナイトはふらりとカズキのもとを離れた。
会計の途中にそれに気付き、慌てて会計を済ます。カバンの中へ詰め込んでサーナイトのもとへ駆け寄るとそこには。
『ん?カフェ?』
「あ…マスター…。」
駆け寄ったカズキに小声でサーナイトは振り返った。
建物の中にカフェがあってそこにサーナイトは立っていた。
トレーナーが食事を取ったりしながらポケモンにもおやつをあげられるというカフェ。
実家でいつもおやつを食べていたから食べたくなったのだろう、とカズキはサーナイトの手を取って中へと入った。
店内には何人かのトレーナーとポケモンがいた。それぞれ楽しそうに食事取っていたり、トレーナー同士で会話を弾ませていたりと和やかな雰囲気が漂っていた。
「いらっしゃいませ!トレーナー様はおひとりでしょうか?」
『はいっ』
「ではあちら奥のテーブル席におかけくださいませ!すぐにお冷をお持ち致します」
案内をされてテーブル席に向かう。
楽しそうに会話をするトレーナー達のそばを横切りながらソファへと腰掛ける。
椅子に座らず戸惑っているサーナイトに自分の隣のソファをとんとんと叩いた。
いつも自分用の椅子かソファなどのそばの床にしか腰掛けなかったサーナイトが戸惑うのは仕方がない。お店の中でサーナイトを床に座らせるわけにもいかない。
カズキの行動の意図に気付いているであろうサーナイトはまだ困惑気味にちまちまと近寄ってきた。
『ここは家じゃないし気にしなくていいよ』
「は、はい…」
あえて向かいに座らせずに隣に座らせたのはひとりで椅子に座るのも心細いだろう、と思ったからだ。
ソファに腰掛けてお行儀よく足を揃えて手を膝の上へと重ねて置くサーナイトの姿は本当に綺麗、美しいという言葉そのもののようだった。
サーナイトはきょろきょろと少しだけ周りを見渡して初めて見る景色に興味はあるようだった。
対してカズキは小さなメニューをぺらぺらと見て、早めの晩御飯を選ぶ。
『サーナイト、ポケモンフードじゃないもの食べてみたい?』
「えっ…どんなものがあるのでしょう…?」
カズキの質問にサーナイトは不意をつかれたように目をまん丸くさせる。カズキの持っているメニューに目をやり数回瞬きしながら美味しそうな料理を見つめる。
自然と顔の距離が近づく。それにサーナイトは気付かず初めて見る料理やお菓子に目を奪われている。
カズキは堪えきれずサーナイトの腰に手を回す。ビクッと身体を震わせてカズキの方を見るサーナイトはその顔の距離に気づいて顔を火照らした。すっと少しだけ顔を離して俯いて顔を隠している。
腰に回した手をぐっと自分の方へ引き寄せて身体を密着させる。
サーナイトは顔を真っ赤にして恥ずかしそうながらも幸せそうにカズキのほうを向いて笑った。
『すいませーーん』
「ただ今お伺いします!」
カズキがサーナイトに笑い返して店員さんを呼ぶ。サーナイトの腰に回していた手をソファへと置いてメニューを伺いにきた店員さんにそれぞれ注文を頼む。
確認を終えて厨房へと向かう店員を見送ってからサーナイトの太ももに手を置く。
サーナイトはそっとカズキの手の上に自分の手を置いて身体を預ける。
暫しのふたりきりの時間を噛みしめるようにお互いの手をにぎりあった。
『美味いな!』
「お母様の作るお菓子の次くらいにすごく美味しいです!」
その後運ばれてきた料理を食べ満足した二人。幸せな気持ちのまま宿を探して野宿を逃れる。
初めての2人きりの夜にお互い緊張しつつも宿ではやることもなく隣同士ベットに座って目的地までの道のりを確認したりリュックの中身を整理したりとなにか気の紛れるような事を探すように過ごしていた。
カーディガンと彼女(4)
.