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ムクホークはその指の音に合わせて光の速さでもっと高く飛んだ。そのまま羽を仕舞い風の抵抗もなく物凄い速さで下降をする。その身は赤く光りまさにドリルのように下降をしている。地面にぶつかるその直前に向きを変えサーナイトの方へと突き進む。
「ブレイブバーーーーーーーーーッド!!!!」
少年は勝ったと確信して叫んだ。
このムクホークは戦闘が大好きだ。力自慢で苦手なタイプであってもその力を見せつけ今まで負け知らずでその力は信頼に値する。
そしてこのブレイブバードは飛行技でも高火力な技、ムクホークの体力を削って相手に大ダメージを与える。
戦闘初心者のメンタルを折りそうだがこの技を受けれただけ幸せだと思え、と少年はニヤリと笑った。
『サーナイトッ!!』
カズキが叫ぶ。
サーナイトは先ほどと違って怯みはせず、カズキの方を見てこくんと頷いた。そして向かってくるムクホークにの方に手を向ける。
目を閉じて意識を集中させる。ムクホークの向かってくるスピードは早すぎる。対処するには相当な集中力が試される。
ふぅ、と息を吐いて目をカッと開く。その時またサーナイトの手が光り、サーナイトの手前まで来ていたムクホークが徐々に減速していく。
ムクホークのブレイブバードとサーナイトのサイコキネシスがぶつかりあう。
周りに風が巻き起こりバチバチと火花が散る。
減速して身動きの取れないことに少し驚いたムクホークだが、瞬時に嘶いて羽を開いて羽ばたくことでスピードを上げる。
対するサーナイトはムクホークを見据えて足を少し開いて力を入れる。か弱い足だがしっかりと踏みしめて手だけに意識を集中させる。
しばらくこの攻防が続く。
カズキも少年もこの2匹の勝敗がわからずじっと見つめる。
その時、ドーンッと派手な音が響き渡り地面が少し揺れて砂埃が舞った。砂埃によって2匹の姿は確認できず砂埃が消えるのを待つ。
程なくして砂埃から見えたポケモンは、
『サーナイト!!!』
「あちゃー…。」
サーナイトだった。肩で息をして目の前に倒れるムクホークを見つめていた。カズキは慌てて駆け寄ってサーナイトの肩を掴んで引き寄せた。
少年もムクホークへ駆け寄ってモンスターボールの中へと入れた。
カズキに抱き寄せられたサーナイトは安心したように少しだけ疲れた笑顔を見せてもたれかかった。
パッパッと服についた砂埃を払いながら少年は2人を見つめている。
「なぁ兄ちゃん、そのサーナイト本当にバトル初めてなのか?」
『ぁあ、今まで家で両親の手伝いをしたりしてただけだ』
「サーナイトのままでか?」
『いや、俺が子供のときにラルトスとして親が連れてきた』
「………ならどうやって進化させたんだ?」
『えっ…。』
そこで少年が何を言いたいのかカズキに理解ができた。
ポケモンはバトルをして経験値を得てレベルを上げて一定のレベルに達すると進化をする。一部例外としてアイテムなどが使われることもあるがそれも他のポケモンがバトルで経験値を得なければならない。
だがサーナイトは今までバトルをしたことがないはずだ。他にポケモンがいたこともない。それに今までの進化するタイミングに必ずカズキがいたがこれ以外に共通点は思い当たらなかった。
しぱらく黙り込んで考えるカズキに少年はまた口を開く。
「なんか、訳ありそうだな。まぁいいやそのサーナイトは確かに強い。ムクホークがこんなにボロボロになったのは初めてだ。また会ったら次はムクホークは必ずお前を倒すからな。じゃーな」
少年はそう言ってひらひらと手を振って去っていった。
立ち去った少年を黙って見送ったカズキは急に力が抜けて座り込む。サーナイトを支えてぎゅうっと抱きしめる。
先程よりも呼吸の整ったサーナイトは震える腕をカズキの首に回して抱きしめ返す。
『もう、こんな思いさせないからな……。ごめんな、サーナイト』
「マスター…私は大丈夫………。」
サーナイトの柔らかい声にカズキは顔を離して見つめる。ふにゃっと笑うサーナイトに堪らず唇を重ねた。ビクッと肩を震わせて顔を赤くするサーナイト。
今度はカズキがふにゃっと笑ってサーナイトの膝裏と背中に手を添えて持ち上げる。
お姫様抱っこの形で持ち上げられたサーナイトは驚いてジタバタもがくがその抵抗もすぐにやめて恥ずかしそうに頬に手を当てて赤らめていた。
カーディガンと彼女(3)
カーディガンと彼女(5)
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