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『サーナイト、行こう』
「はい、マスター」
カズキの旅の始まり。両親は心配しながらも笑顔で見送ってくれた。ガーディは最後まで足にしがみついて離れなかったが、両親に何かあったら守ってくれ、と頼んだら一声鳴いて寂しそうに両親の前で座っていた。
たくさん詰まったリュックを背負い直してサーナイトと手を繋いだ。
マップでどこから行くかは大体は決めていた。そこへ向けて足を進める。好奇心や希望が溢れて止まない。キラキラ輝いたカズキの瞳をサーナイトは斜め後ろからじっと見つめた。
昨日の夜の母親の言葉が胸に突き刺さる。
けれど今は、今だけはこのカズキの暖かい手を振りほどけはしなかった。
「ムクホーク、調子はどうだい?」
「ムクホォォォーーーック!!!」
「うん、絶好調だな!」
ひとりの少年が鳥ポケモンを空へ飛ばしている。鳥ポケモンは大きな翼を大きく上下させて旋回している。大きく甲高い鳴き声をまわりに響かせて降下して少年の隣に足を着いた。その反動で風がふき、ぶわっと少年の髪がなびいた。
「ん?お、あそこにトレーナーがいるな。ムクホーク、力試しでもしてやるか!」
そう言って少年は駆け出した。その後ろをムクホークはゆっくりと翼を羽ばたかせて付いていく。
少年の向かう先にはサーナイトを連れるカズキの姿があった。
その近くに立ち止まり少年は大きく息を吸ってカズキに向かって叫んだ。
「よう兄ちゃん!立派なサーナイトだな!」
『ん、ぁあ。自慢のサーナイトだよ』
「そうか!ならポケモン勝負しようぜ!」
『勝負…?』
ポケモン勝負はガーディの研究をしてた際に何回か友達のポケモンとしたことがある。
ただこのサーナイトは特別だ。家から出したことはあらずもちろんポケモン勝負なんかしたことがない。他の人間と会うことはおろかガーディ以外のポケモンと会ったこともない。
サーナイトを見ると、不安そうにカズキを見つめるサーナイト。
「行くぜ!!!ムクホークお前に決めた!」
カズキに構わず少年が手を前へ突き出すとムクホークが前に出て大きく嘶く。カズキは決意固まらずサーナイトを後ろに立たせている。
その様子に少年は苛立たしそうに腕を組んで舌打ちをした。
「おいおい、トレーナーならポケモン勝負は基本の基本だろ。まさか今更出来ないとか言わないよな?」
『…サーナイトは勝負未経験なんだ』
「なんだよ温室育ちのお嬢様かよ。ポケモンは勝負してなんぼだろ!ほら!前に出せよ!俺が練習相手になってやるよ。手加減はしてやらねーけどな!」
ムクホークは大きな翼を開いて上空へと飛ぶ。こちらを見下してまた嘶く。
カズキ達の会話を不安げに聞いていたサーナイトだったが、決意を決めたように自らカズキの前へと出た。キッと少年を見据えて震えを押さえるように手を握った。
そんなサーナイトを見て旅へ連れてきたことを初めて後悔したカズキ。今なら降参してお金を出せば見逃してくれるだろうか、と考えるが少年の声でその思考はかき消された。
少年はサーナイトに向かって指を指す。
「よっしゃ!行くぜ!ムクホーク!!つばめがえし!!」
「ムッ………クホォオオオク!!」
少年の声にムクホークは上空からくるりと円を描くように回りながらサーナイトの方へ突進してくる。
あまりの速さにサーナイトは身動き取れずに真正面からムクホークの技をくらってしまった。その反動でカズキの横に吹っ飛ばされて呻き声をあげる。ガードも受け身もとれずにまともにくらった為サーナイトの体力はかなり削られただろう。駆け寄って抱き起こす。
『サーナイト!!』
「なんだあ?試合中に戦闘してるポケモンに触れるとは、本当の初心者かよ」
サーナイトの身体は傷だらけで歯を食いしばって立ち上がろうとしている。
こんなに怪我をするのも初めてなのに勝負なんてできないだろう。カズキは少年の方を向いてやはり降参しようと試みた。
だが、サーナイトはそんなカズキを押し退けて立ち上がった。足はガクガクと震えていたが決意したかのように先程の震えはなくなった。
「……サナナッ」
「ほーう、お嬢様はまだやる気か」
改めて少年達と向き合ったサーナイト。不安げに見つめるカズキ。その時チラッとサーナイトがこちらを見た。その意図にカズキは気付く。ポケモンはトレーナーが指示をして技を繰り出す、だからサーナイトはカズキからの指示を待っているのだ。だがその為にはカズキはサーナイトの使える技を把握しなくてはならないのだが、サーナイトは戦闘未経験。カズキは何も把握してはいなかった。
なんとか思考を張り巡らせる。
そして、ひとつの答えに辿り着く。
『…っサーナイト!サイコキネシスだ!!!!』』
「サナァ……ッ!」
カズキの掛け声にサーナイトは両手を前に出して目を閉じる。たちまち手が光りだしてサーナイトの周りに重力がなくなったかのように髪とスカートがふわりと浮く。その次の瞬間にはムクホークが叩き落とされた。
少年はふんっと鼻を鳴らす。
叩き落とされたムクホークはすくっと立ち上がって嘶いた。大きな羽をばさばさ羽ばたかせてまた上空へと飛び立った。
「もっと楽しませてくれや」
少年はパチンと指を軽快に鳴らした。
カーディガンと彼女(2)
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