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『サナ、疲れてない?』


「大丈夫ですよマスター」




ラフな恰好に大きなバッグを背負った男の子と、緑色の髪に白いふんわりとしたスカートと淡いピンク色のカーディガンを羽織った女の子。
はたから見たらカップルなような2人だが、彼らはそんな関係ではない。



「わあ、おにーちゃんのサーナイトかわいいね!!!」


『あはは!そーだろ?自慢のサーナイトだ』



たまたま近くにいた小さな女の子が彼女をキラキラとした目で見つめる。
そんな視線に白い肌を赤く染めながら男の子の背にそっと隠れる彼女に男の子は笑っている。
男の子の名前はカズキ。立派なポケモントレーナーだ。
そして彼女、サーナイトは大事なパートナーポケモンである。このサーナイトとはカズキが小さいときからずっと一緒に時を過ごしていた。
サーナイトがポケモンとして、どうして人間の言葉を話せるようになったのかわからないがカズキと2人の時だけサーナイトは話せるのだ。
まるで人間かのように言葉を話し、感情を表して、反応をする。
そんなことを不思議に思っていた時期もあったが、それが自分のサーナイトなんだと思ってからは特に気にしてはいない。



「サーナイトさん、またお話しよーね!」



たくさんサーナイトと触れ合えて満足したのか女の子が手を降って走り去る。
サーナイトも控えめに手を降って先に歩くカズキの後ろを追いかける。
するとふわっと羽織っていたカーディガンが落ちかけて慌てて掴んで掛け直す。
チラッとカズキの方を見る。
地図を広げてうーん、と首を傾げているカズキの姿を見ているといつも胸がドキドキと鼓動を早くする。
そういうときはカーディガンをきゅっと掴むとドキドキが幸せに変わる。
ポケモンとして感じ得ないであろうこの感情をサーナイトは少しだけ気づいているが、
カズキとの今のこの関係が崩れてしまうかもしれないことにも気付いていた。
そんな少しだけ複雑な感情に切なくなりながらカズキをじっと見つめていると、カズキが不意にこっちを見た。



『カーディガン落ちそうならちゃんと着とけよー?汚したら洗うまで着れなくなっちゃうぞ』



「はい、マスター…」



そんなことをはにかみながら言うカズキにサーナイトも頬を赤く染めてふんわり笑って頷く。
カーディガンを慎重に着る。このカーディガンはカズキからプレゼントされた大切なカーディガン。ずっと着古してほつれてきているが絶対にサーナイトはこれを捨てようとしたりはしなかった。
少し伸びた裾はサーナイトの手をちょうど隠す長さになり、ボタンも何回か縫い直した。


『サナさぁ…。そのカーディガンめっちゃ着てくれてるよね。そろそろ新しいのあげようか?』


「え?…いいえ。私はこれが好きです。これが良いです」


そう言ったサーナイトは本当に幸せそうに笑っていた。






過去の僕と、彼女(1)

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