このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

第1章

次の日、ゴールドはポケモンセンターでポケモンを受け取り、行動は開始した。まずはこの町にあるはずのロケット団のアジト探した。ワタル曰く、ロケット団が入り浸り始めた一年前から町で新たに建てられた建物は無く、大きな建物の売買なども確認されていないらしい。

「となると、地下か」

ワタルはブーツで地面を叩いた。どこか小さな建物の地下にアジトを広げたと考えるのが妥当だ。早速二人は怪しい家々を探した。
 と、その時。

「安いよ安いよ~」

あの怪しい店子の声だった。ワタルと手分けしたゴールドは、その声を聞いて振り返る。彼は古い家の前で暖簾を上げていた。

「ここでしか買えないお土産だよ~。買わなきゃ損だよ~」

なるほど、その暖簾には「土産」の文字がある。先日の「いかり饅頭」も商品の一つなのだろう。店子は暖簾を整えながら続ける。

「チョウジ名物いかり饅頭に、滋養強壮にバッチリなキノコ、それから栄養満点、これぞ通の味、ヤドンのシッポってね~。……ん?」

背後から肩を叩かれ、店子は振り返った。そこにはにっこりと笑うゴールドとポケモン達が。

「ヤドンのシッポと言えば、ヒワダでヤドン達を連れ去った……」
そしてその笑みは一瞬で真っ赤な怒りへと変わる。
「お前たちロケット団だよな~~~っ!」
「ひえええええ!?」

店子に詰め寄るゴールド達。そしてそんな彼の様子を見に来たワタルは、店子のずれおちたエプロンから覗く「R」の文字を見て。

「アジトを探す手間が省けたなあ……。なあカイリュー?」

笑うワタル。隣の温厚なカイリューもにっこりと笑った。
 そして。

「はかいこうせんッ!」


 吹き飛ばされた店子はそのまま店の戸をぶち破り、中に転げ落ちた。中に居たもう一人の店子は顎が外れんばかりに驚き、壊れた戸から入ってくるワタル達を見る。
 ワタルの顔は冷静かつ、恐ろしかった。ぎろりと竜のような強い眼差しで中の店子を睨む。

「アジトの場所を言え。さもなければ、お前もああなる」

ワタルは無様に倒れている男をすっと指さす。そしてもう一度睨まれた店子は、蚊の鳴くような声で「そこです……」と言って、床の隠し扉を指さした。

「グ、グレートだぜ……。ワタルの兄ちゃん」

隠し扉を調べているワタルの後ろで、思わずゴールドは呟く。
(クールな人かと思ったらトンデモない人だった……。人は見かけによらないのか)
手加減されたとはいえドラゴンタイプの“はかいこうせん”をその身で受けて倒れた店子を見て、ゴールドは生唾を飲んだ。

「よし、ここだな」

床の隠し扉をワタルが開くと、そこには地下に続く階段があった。地下から上がってきた風は不気味で、ゴールドの頬には汗が伝っていた。

「ゴールド」

ワタルが静かにその肩を叩く。しかし次の瞬間には、少年の瞳には強い光が宿っていた。

「行こうぜワタルさん!」

よし、と二人は頷き合い、階段を下りた。


 二人は息を飲んだ。古びた土産屋の地下に広がっていたのは研究所だった。重厚な研究機材がひしめく中、所々に置かれている観葉植物や置物がミスマッチだった。ロケット団が現れた一年前に作られたアジトとして、二人が想像していたものはもっとこじんまりとしていた。しかし実際はビルの一階分にも相当する広い空間だった。

「うわぁ、すっげ~。ひろ~い」

思わず感動してしまい、ゴールドは壁を手で撫でた。

「驚くのは分かるけれど、油断するなよゴールド」

立ち止り周囲を見回すワタル、対して好奇心に負けたゴールドは辺りの物を触り始めた。
 そしてペルシアンの置物に手が触れた。
 けたたましい警告音。室内の明かりが点滅する。

「う、うえええ!?」

ゴールドは飛びのいた。警告音は止まず、騒がしい足音がこちらに向かってくる。

「気づかれたか。侵入者対策の置物、かな」
「ご、ごめんなさいワタルさん!」
「いいさ。どうせこうなるつもりだったんだ」

丁度いいとワタルは顔を上げる。視線の先には、多数のロケット団員がやって来ていた。

「侵入者め! とっ捕まえてやる!」

その中の一人が勇ましく言い、対してワタルは不敵に笑う。

「捕まえる? それはこちらの台詞だ、ロケット団」

ワタルが手を振りかざすと、後ろからカイリューが、手中のボールからはハクリューが現れた。二匹の面持ちは野生ポケモンの比ではない、歴戦の跡が刻まれんばかりだ。
 二匹の迫力に下っ端たちは思わず後ずさりをする。
 ワタルに続いてゴールドも前に出た。

「こうなったらやってやる! 行くぞ皆!」

ボールから全てのポケモンを出す。地下室の戦いの火蓋は切って降ろされた。

「いっけえ皆! 一斉発射!」

ゴールドのポケモン達は一斉に得意技を放った。


 警告音は二人の耳にも入っていた。制御室に居たローザとインディゴはけたたましい警告音に顔を上げた。

「ふむ、侵入者か。酔狂な」
「何呑気なこと言っているのよ、インディゴじいさん」

早速モンスターボールを身に着け始めたローザに、まあ待てとインディゴは言う。

「アンタはまだデータの消去が終わっておらんじゃろう? わしが行こう」
「侵入者のところ?」
「発電室じゃよ。データを盗みに来た小悪党でもあるまいに。奴らの狙いは電波妨害の阻止じゃろうて」
「ココに来て元電源を切るかもしれないわ」
「それならアンタが遊んでやったらいい。そうじゃろう、ローザさんよ」

ふっとローザは笑った。そして再びパソコンに向かい。

「じゃあお言葉に甘えて私はここに残るわ。しっかりね」
「アンタもな」

お互いの健闘を祈り、インディゴは部屋を出た。しばらく進んだ所で辺りを見回し、白衣のポケットからインカムを取り出す。

「出番じゃぞ、ジン」
『分かっている』

耳に取り付けたそこからは、白髪の男、ジンの声が聞こえてくる。

「わしのゲンガーはそのまま持っておれ。わしはこれから発電室に向かう。お前もアレを回収するんじゃ」
『了解』

          ***

 下っ端達を蹴散らしながら、ゴールドとワタル達は地下二階へ降りた。そこにあったのは厳重な鉄の扉、そしてその横には『発電室』の文字がある。

「もしかしてここで電波を発生させる為の電気を?」

ワタルは扉に設置されている液晶画面を調べた。どうやらこの扉を開ける為には音声入力のパスワードか制御室で操作をするしかないようだ。

「ここさえ開いちまえば……」

ゴールドも扉を調べるが、頑丈な鉄の扉はびくともしない。そうこうしている内に地下一階から下っ端達が雪崩れ込んでくる。咄嗟にワタルとカイリューが応戦をした。

「ゴールド!」

ワタルは顔だけを少年に向けた。

「ここは俺が引き受ける!」

下っ端の数は今まで以上で、とてもゴールド一人では対応できそうにない。ワタルはカイリューとハクリューに巧みに指示をする。

「君は制御室を探してくれ!」

ワタルさんっと心配そうに彼を見るも、その横顔はカイリュー達と同じく、歴戦の猛者のものだった。
 一体何者なんだこの人、と疑問に思いつつも、ゴールドは勢いよく返事をして、ポケモン達と共に階の奥へ進んだ。


 二階にはそれ以上何もなく、地下三階に通じる階段があるのみだった。慎重に階段を下りると、そこは今までの階と違って狭く、部屋も一つしかない。

「ううーん、ここかな」

此処でなければ地下一階に戻るしかない。祈るようにその部屋の扉を調べると、確かに制御室と書かれている。

「よっしゃビンゴ! ……あー、でも」

扉に設置されたパネル。ここでもパスワードが必要らしい。

「どうしよう……ここまで来たのに」

パスワードなんて知らないよ……。
 パスワード。
 パス、ワード……。

「んん?」

脳裏にぼんやりと浮かぶそれは、メモ帳だ。スリバチ山の泥棒が持っていたメモ帳だ。それ曰く『パスワード! 仲間じゃない奴は絶対、ぜぇーったい見るな!』

「ま、さ、か」

そこに書かれていた言葉を恐る恐る打ち込んでみた。
 すると。

「ひ、開いたぁ……」

唖然、茫然だった。しかし次の瞬間には細かい事はどうでも良くなった。あの泥棒たちは本当にロケット団員だったなんてことは至極どうでもいい。とにかく今は発電室のドアを開けなければ。
 ゴールド達は迷わず部屋の中へ入った。
 重厚な機械と上質なカーペットによるミスマッチ。その中央に佇む一人の女性。

「やあね、やっぱり来たじゃない。まあ」

朱色の髪を揺らし、彼女はゴールドに笑いかけた。

「この方が退屈しなくていいけれど」

ロケット団、とゴールドが呟けば、女性は高らかに笑い声を上げ。

「そう、私の名はローザ。悪名高いロケット団の幹部の一人よ」

幹部、と聞いてゴールドの頭に思い浮かんだのはあの下睫毛が長い男だった。

「グレイと同じ幹部だと!?」
「あら、グレイの事知っているの」

ああそうか、とローザは口元に手をやった。

「あんた、エンジュのサミットで私たちに盾突いたガキね? なるほど、今回の騒動も納得だわ」

でもね、ローザの笑みは美しくも不敵だった。

「私はあいつほど簡単じゃあないわよ。私たちの計画に首を突っ込んできた事、きっちり後悔して頂戴ね」
9/16ページ
スキ