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第1章

意気揚々と進む一行であったが、その足取りはかなりバラつきがあった。鼻息の荒いクリスは走らんが如く、ゴールドはそれに追いかけるので精いっぱいだった。

「い、急ぎすぎだって~。もうちょっとゆっくり歩こうぜ」

クリスー! と呼びかけるも、彼女は足を止めず、顔だけ後ろに向けた。

「セレビィは待っていてくれないわ! どんどん、どんどん行かなきゃ!」

スピードを更に上げるクリス。もやはゴールドは諦め気味で、それにつられてピカチュウやアリゲイツも足が進まなくなってきた。
 彼女にぴったりと付いているのは、心優しく真面目なベイリーフだけで、どんどん進むクリスとどんどん遠ざかるゴールドを心配そうに見ている。
 と、その時。

「うわっ!?」
「きゃっ!?」

突然の地響きと揺れ、そして次第に強さが増していく。
 二人はお互いに向き合うも、あまりの揺れにまともに立つ事すら出来ない。その場に座り込んだ矢先、周りの岩壁から轟音が聞こえてきた。舞う砂塵、そして降り注ぐ物は―。

「ゴールドォ!」
「クリスーッ!」

伸ばした手は虚しく空を掴むだけで、二人の目の前は落石で埋もれてしまった。


『……―時頃に発生した地震は、36、37番道路を震源とした震度5の揺れでした。震源周辺は落盤が相次ぎ、現在36番道路は通行止めとなっております。尚、死者や大きなけが人は確認されていないとのことです。エンジュシティ、コガネシティ、キキョウシティの消防は連携して生き埋めになっている人が居ないか、捜索中です。尚今回の地震により、先ほどの三つの街の物流はストップし、現在各市長により対策が練られているとのことです。繰り返します、今日の午前……』


「驚いたも何もないぜ……」
『とにかくお互いに無事で何よりね』

エンジュシティのポケモンセンターのソファに腰かけ、ゴールドはポケギアに向かって話している。画面の向こうのクリスは、現在ベイリーフと共にキキョウシティのポケモンセンターに居る。
 あの大きな地震により三叉路は塞がれ、幸いにしてお互い無傷で、その代わりにエンジュシティとキキョウシティに分断されてしまった。

『そっちはどう? ミナキさんや舞子さんは無事?』
「ああ、皆街の中に居たから問題ないぜ。でも……」

ゴールドは辺りを見回した。ポケモンセンターは先ほどの地震で怪我をしたポケモンとトレーナーで溢れかえっている。おかげで物資の消費が著しい。

「まあ足りない分はアサギシティから輸入品が届けられるらしいから、あんまり心配ないみたいだ」
『こっちもそこまで被害は無いみたいよ。良かったわぁ』
お互い胸をなでおろし、そして二人は本題に移った。
『これからどうしよう……』
「三叉路が塞がれちまったからなあ」
『私はヒワダタウンを経由して行けばコガネシティには辿り着くわ。……でもそっちは』
「そうなんだよなあ」

ゴールドはタウンマップを広げた。今の状態でコガネシティに着くには。

「フスベシティまで行って、46番道路を下り……ワカバタウンに戻る……」
『めちゃくちゃ遠いわよねーっ! あーん!』
げっそりとするゴールドとクリス。しかし次の瞬間にはクリスはある方法を思いつく。
『あ! そうだ! 空を飛んだら!? ピジョンに乗せていってもらうのよ!』
「あー……、それなんだけどさぁ」

ゴールドはつい数十分前の事を思い返す。ポケモンセンターに着く前の事だ。街は消防隊や住民の行き交いで混乱していた。消防隊が所持するポケモンは災害現場で活躍してくれる力持ちのポケモンや、機動力に優れたポケモンが多い。その中には空を飛び、けが人や救助道具を運ぶポケモンも多く居る。
 しかし大型の飛行ポケモンは育てる事すら難しく、そもそも数が少ない。各街の消防隊のポケモン、キキョウシティのハヤト率いる「鳥使い」達を合わせても手が足りない状態だった。
 そんな時、消防隊員はよくよく育ったゴールドのピジョンを見つけた。「頼む! 生き埋めの人が居ないか探している真っ只中で、一分一秒も惜しいんだ! どうかそのポケモンを貸してほしい!」
そんな事を言われては断れと言う方が難しい。ゴールドは間髪を入れずに承諾をした。

「というわけで、しばらくおいらのピジョンはエンジュシティの消防隊に貸す事になったんだ……。ごめんな」
『何言ってるのよ! 私だってきっと同じ事をしたわ! 仕方ないわよ』
クリスはゴールドを励ますも、二人の状況は一向に良くならない。
『とにかく今日は休みましょう。周りの手伝いをしながら、ね』
「そうだな、また明日連絡するよ」


「皆さんお疲れさんどすー。ぼちぼち休憩しまひょ」

舞子や見習いたちは癒しの笑みを浮かべながら、作業をしている人々にお茶を振る舞った。

「ミナキはんもゴールドはんもお疲れさんどす」

ポケモン達と共に落石を片づけていたミナキとゴールドに、サツキは笑顔でねぎらった。

「ほんに災難でしたなぁ、ゴールドはんもクリスはんも」

ゴールドにタオルを差しだし、サツキは苦い顔をした。ゴールドも汗を拭きながら、うーむと唸る。

「これからどうしようかな……。何かコガネシティに行く良い方法は無いかなぁ」
「私が飛行ポケモンを持っていれば貸してあげられたんだがね」

ミナキも手持ちのハンカチで丁寧に額を拭う。二人は揃って唸り声を上げて考え込んだ。
 しばらくして、あのぉ、とサツキがのんびりと挙手をする。

「人を乗せられるだけの大きな飛行ポケモンがおったらええんやろ?」
「うん」
「そやったらなぁ、つい一昨日の事や」

サツキはゆったりと首を傾げ、何かを思い出していた。

「修練場で見習いの子にべたべた触るお客はんがおったんよ。困って、あてらで追い払おうとしたらな。大きなポケモン連れたお兄さんが成敗してくれたんよ」
「大きなポケモン? どんな風だった?」
「あれは、せやねえ、確かカイリューやったかしら」
「カ、カイリュー!?」

ゴールドはぶったまげた。カイリューと言えば扱い辛くも非常に強力なドラゴンポケモン、その中でもグンを抜いて高い能力を持つ大型ポケモンだ。

「マントを付けた男前やったわぁ。その人は名前も名乗らず見習いの子を助けて消えてしもうたけど」
「え! 消えちゃったの!?」
「ふふふ、でも行先は聞いておいたんよ」

サツキは抜け目のない笑みを浮かべ、ゴールドのタウンマップを借りて開く。
 彼女の指が指した場所は、チョウジタウン。

「その男前さんは確かここの、ええっと、何とかって湖に行く途中とか言ってたなぁ。悪い人とちゃうみたいやったし、事情を話したらカイリューを貸してくれるんちゃいますか?」

確かに、と傍で聞いていたミナキも頷く。ゴールドは早速タウンマップのチョウジタウンに印をつけた。


 次の日、再び連絡を取り合ったゴールドとクリス。クリスは先にアルフ遺跡を通り、ヒワダタウン、ウバメの森を抜けてコガネシティへ。ゴールドは例のカイリュー使いを追いかけ、チョウジタウンへと向かう事になった。
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