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原神

ひと通り任務に目処がついて、ふっと肩の力を抜く。
胸元に飾った臙脂色の布がひらりとはためいた。
相変わらず厄介事ばかり押し付けられて、面白いことなどひとつもない。
ならばいっそ辞めてしまえば、が過ぎらないこともない……が、それは出来ない。

「……さてと。今夜の宿はどうするかなぁ」

嫌な考えを振り払うように、タルタリヤはわざと声に出した。
ここから圧倒的に近いのは望舒旅館。
そこならファデュイが極秘に使用している部屋もあるので、言ってしまえばモラ1枚払わずに豪華な部屋に泊まることが出来る。
何もなければ間違いなくそこへ行くだろう。
だが、彼の足は望舒旅館とは反対方向に向いた。

***

すっかり陽も落ちて、宵闇に提灯の灯りが輝く頃。
タルタリヤは璃月港の門をくぐった。
まずは万民堂で腹ごしらえが普通なのだが、彼は迷いもなく店の前を通過する。
そして、港の奥にひっそりと建つ小さな民家の戸を叩いた。

「今宵も璃月の月は綺麗だね」

そう告げると、ゆっくりと戸が開いた。
これは彼が来たという合図。
隙間に身体を滑り込ませるように中へ入ると、タルタリヤは顔を綻ばせた。

「久しぶりだね」
「もう来ないのかと思っていたわ」
「相変わらずつれないなぁ」

厳しい言葉の裏には他にも感情があることを知っているので、それ以上は触れずに、ただ彼女を抱きしめた。

「仕事、忙しいの?」
「そうだね……でも、キミとの時間に仕事の話はしたくないな」

不敵に口端を三日月形に歪めて、タルタリヤは半ば強引に彼女の唇を自分のそれで塞いだ。
余計な言葉なんていらない。
会えなかった時間を埋めるように、貪るように、時に激しく時に甘いキスを何度も繰り返した。

「……ちょ、っと……タル、タリヤ……」
「ん?」
「……いきなり……すぎ……」
「でもキミだって、まんざらでもないんだろ?」

潤んだ瞳は恍惚として、焦点を失っている。
それが何よりの証拠だ。
ふらつく彼女の身体を支えながら、どちらからともなく寝室へ向かった。
ベッドへ倒れ込めば、また雨のようにキスを降らせる。

「……愛してるよ」

耳元で溶けるほど甘い声で囁いた。
ファデュイだとか、公子の立場だとか、そんなもの関係ない。
この瞬間だけが、ただ1人の彼女へ想いを寄せるだけの男でいられる。
月明かりがぼんやりと照らす彼女の表情が、いつになく妖艶で、愛しくて、どうにかなりそうだと頭の片隅で考えた。

ーあぁ、この時間が永遠に続けばいいのに

叶わぬ願いとは知りながら、タルタリヤはそう切に願う。
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