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原神

「じゃぁ、行くよ」

ひらひら手を振って、タルタリヤはいつもと同じ笑顔で踵を返す。
引き止める理由も義務も持たないわたしは、ただ黙ってそれを受け入れるしかない。
彼はわたしの仲間じゃない。
ファデュイの執行官だから。
今回はたまたま利害の一致で共闘しただけであって、次に顔を合わせた時は敵同士かもしれない。
わたしたちはそんな脆い関係の上に成り立っている。

ー行かないで。

その一言が言えたらどれだけ良いだろう。
頬を伝いそうになる涙を必死に堪えて、小さくなっていく彼の背中を見送る。
そのはずだったのに。

「女の子にそんな顔されちゃ、帰れるものも帰れないんだけど?」

いつの間にか、タルタリヤはわたしの隣にいた。
しょうがないなぁって、眉尻を下げて。

「これ、持ってて」

そう言って渡されたのは、彼の瞳と同じ色の宝石のついた、クジラの尻尾を型どったブレスレットだった。

「これさえあれば、キミがピンチの時は何処でも駆けつけるよ」
「どうしてピンチの時なの?」
「知らない所で勝手に死なれちゃ困るだろ?」

キミを殺すのはオレなんだから。
その言葉と笑顔の裏にもう一つの感情があるように思えて、微かに心の奥が暖かくなった気がした。

「何でもない時にも会いに来てよ。こき使ってあげるから」

可愛げのない言葉で返すけれど、そこに隠したわたしの気持ちが貴方にも伝わるかな。
聡い彼のことだから、きっと大丈夫。

「それじゃ、またね」

わたしの手の甲に触れるだけのキスを落として、タルタリヤはその場で姿を消した。
甲がじんわり熱を帯びるのを感じながら、わたしも踵を返した。


次に相見える時は刃を交えることがないよう願いながら。
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