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その他

それは、とあるあたたかい日のことだった。
お館様への任務完了の報告を済ませて帰ろうとしていた時だった。

「伊黒さんも報告ですか?お疲れさまです!」

両手に大福を持って、口の中にもそれを頬張っているのは、名前はたしか、甘露寺と言ったか。
最近煉獄の継ぐ子になったとかいう。

「私もさっきお館様にご挨拶をしてきたんです!」

任務終わりだからお腹空いちゃって。
聞いてもいないことを次々と答えてきて、呆気に取られてしまう。
どうにも女性は苦手だ。
早々にこの場を立ち去りたいと思うのだが、どうにも彼女はそれを許してくれそうにない。
もちろん、彼女に他意はないのだろう。
同じ鬼殺隊の隊士だからおしゃべりがしたい。
きっとそのくらいにしか思っていない。
だからこそ、適当にあしらって自分の屋敷に帰りたいのだが。

「おひとつどうですか?」

甘露寺は、そう言って微笑みながら大福を俺に差し出してきた。
たくさんありますから、と言いつつも俺がここを通らなかったらひとりで全部食べるつもりだったのか。
その華奢な身体のどこにそれだけの大福が入るというのだ。
たくさんの疑問を抱えつつ、差し出されたままなのも如何なものかと思い、結局は受け取って彼女の隣に遠慮がちに腰を降ろした。

「ここの大福、とっても美味しいんですよ〜。私大好きなんです!」

食べること自体、正直苦手だ。
かつての記憶が蘇ってくるから。
けれど、なぜかその時の俺は不思議と躊躇することもなく大福に口をつけていた。

「……うまい」

素直にこぼれた言葉だった。
本当に小さな、小さな声だったけれど、彼女には届いたようで。
玩具を与えられた子どものような笑顔になった。

「もうひとつ食べますか?」
「いや、これだけで十分だ……」

腹はいっぱいだから。
丁重に断ると、彼女はひどく驚いた顔になる。
伊黒さんって少食なんですね、と。
そして少し困ったように眉尻を下げて、私人よりもいっぱい食べるんです、と笑った。
その表情に、なぜか心の奥がぽわりとあたたかくなったような気がした。
小さな火が灯ったような、そんな感覚。
こんなことは生まれて初めてだが、そこに嫌悪感はなかった。
むしろ思わず表情が緩んでしまいそうだった。

一刻も早く帰りたいと思っていた気持ちは、いつの間にかどこかへ行ってしまった。
いまはただ。
もう少しだけ彼女の楽しそうな横顔を眺めていたい。
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