その他
エレンが文字通り、全ての巨人をその手で消し去ってから、どれくらい経っただろう。
奇跡的なのか、あいつに守られていたからなのかは定かではないが、生き残ったオレたちは壁の外の人間たちとの和平交渉の席についていた。
まさか自分がこんな立場の人間になるとは、訓練兵になったあの日には想像も出来なかっただろう。
本当に、沢山のものを失った。
けれど、これからは沢山のものを手に出来るのだろう。
エレンは自分の死を代償に、オレたちへ自由を与えてくれた。
「……ただい、ま……」
久しぶりに自分の家に帰った日。
なんだかここが今まで暮らしていた家だという実感が持てなかった。
これは夢で、次の瞬間には巨人が窓から顔を覗かせて、そのデカい手でオレを口へと放り込むのではないか。
そんな想像まで、簡単に出来た。
けれど、随分と歳を取ったような気のする母親が出てきて、おかえりと抱きしめてくれた瞬間、言葉にできない程の安堵感に包まれた。
よかった、生きていてくれた。
ガキの頃は散々口答えもして、喧嘩もしたけれど。
今はただ、ここに居てくれるだけで嬉しかった。
「……母ちゃん」
「なんだい?ジャンボ」
「……オレ、母ちゃんのオムライスが食いたい」
それは、自然と出た言葉だった。
少し前のオレなら、その呼び方ひとつにすらカチンときて怒鳴り散らしていただろうけど。
今となっては嬉しくて涙すら出てきた。
調査兵団はというと、その名前こそ残しているとはいえ、今は街の復興を目指して瓦礫を撤去したり、壊れた家の片付けを手伝ったり、いわゆる救助活動を主としている。
アルミンを筆頭に、オレもまた指揮役として何とか生き残った新兵のケツを叩いている。
そんな毎日を送る中で、一日休暇を取ったある日、オレは街外れの丘に登った。
「……よぅ、ミカサ」
「……ジャン」
ミカサは暑苦しいにも関わらずマフラーを巻いて、綺麗な黒髪を風に靡かせている。
調査兵団の仕事がないときは、必ずここにいるとアルミンから聞いていたが、本当にそうだとは。
まぁでも、今日はこいつに会いに来たのだから、いてくれないと困る。
「……話が、あるんだけど、よ」
「なに?」
そっとエレンの墓石に触れて、彼女はこちらを見る。
ばっさりと短くなっていたその黒髪も、いつの間に初めて会った頃と同じくらいに伸びていた。
その時からずっと変わらずに抱き続けていた想いをオレは今日、言葉にする。
「……ミカサ、オレと……けっ……結婚、して、くんねぇ、か?」
いろいろと恰好つけたセリフを考えてきたのに、いざとなると何も出てこない。
こんなみっともないひと言になるはずではなかったのに。
「……私は、エレンのこと……」
「それでいい。お前はエレンを好きなままでいい」
勿論、わかっている。
どうしたってこいつがエレン以外を好きになるなんて有り得ないって。
「形だけで……いいからよ」
忘れろ、とは言わない。
ただ、ほんの少しでいいからオレの気持ちを受け取って欲しかった。
訓練兵のときからずっと変わらなかった、この気持ちを。
「……わかった」
拍子抜けするほど簡単に、ミカサは頷いた。
もしかしたら意味が分かってないのではとも思い、何度も確認する。
本当にいいんだな、と。
その度に彼女は頷いて、最終的にはもういい加減わかったでしょと言われてしまった。
「……ありがとな、ミカサ」
「……?」
そして、最後にエレンの方を向く。
「いいか死に急ぎ野郎!ミカサはオレが絶対幸せにするからな!!あの世で指でも咥えて見てやがれ!!」
これが神様に誓う代わりだ。
病める時も健やかなる時も。
お前が出来なかった分、オレがずっとミカサと一緒にいる。
いつかオレがそっちに行く時まで、せいぜい悔しがっていればいい。
そうやって、オレは見せつけるようにミカサの手を握った。
困ったように眉尻を下げられたけれど、今更気にしない。
オレたちはもう、自由な明日へと歩み出したのだから。
奇跡的なのか、あいつに守られていたからなのかは定かではないが、生き残ったオレたちは壁の外の人間たちとの和平交渉の席についていた。
まさか自分がこんな立場の人間になるとは、訓練兵になったあの日には想像も出来なかっただろう。
本当に、沢山のものを失った。
けれど、これからは沢山のものを手に出来るのだろう。
エレンは自分の死を代償に、オレたちへ自由を与えてくれた。
「……ただい、ま……」
久しぶりに自分の家に帰った日。
なんだかここが今まで暮らしていた家だという実感が持てなかった。
これは夢で、次の瞬間には巨人が窓から顔を覗かせて、そのデカい手でオレを口へと放り込むのではないか。
そんな想像まで、簡単に出来た。
けれど、随分と歳を取ったような気のする母親が出てきて、おかえりと抱きしめてくれた瞬間、言葉にできない程の安堵感に包まれた。
よかった、生きていてくれた。
ガキの頃は散々口答えもして、喧嘩もしたけれど。
今はただ、ここに居てくれるだけで嬉しかった。
「……母ちゃん」
「なんだい?ジャンボ」
「……オレ、母ちゃんのオムライスが食いたい」
それは、自然と出た言葉だった。
少し前のオレなら、その呼び方ひとつにすらカチンときて怒鳴り散らしていただろうけど。
今となっては嬉しくて涙すら出てきた。
調査兵団はというと、その名前こそ残しているとはいえ、今は街の復興を目指して瓦礫を撤去したり、壊れた家の片付けを手伝ったり、いわゆる救助活動を主としている。
アルミンを筆頭に、オレもまた指揮役として何とか生き残った新兵のケツを叩いている。
そんな毎日を送る中で、一日休暇を取ったある日、オレは街外れの丘に登った。
「……よぅ、ミカサ」
「……ジャン」
ミカサは暑苦しいにも関わらずマフラーを巻いて、綺麗な黒髪を風に靡かせている。
調査兵団の仕事がないときは、必ずここにいるとアルミンから聞いていたが、本当にそうだとは。
まぁでも、今日はこいつに会いに来たのだから、いてくれないと困る。
「……話が、あるんだけど、よ」
「なに?」
そっとエレンの墓石に触れて、彼女はこちらを見る。
ばっさりと短くなっていたその黒髪も、いつの間に初めて会った頃と同じくらいに伸びていた。
その時からずっと変わらずに抱き続けていた想いをオレは今日、言葉にする。
「……ミカサ、オレと……けっ……結婚、して、くんねぇ、か?」
いろいろと恰好つけたセリフを考えてきたのに、いざとなると何も出てこない。
こんなみっともないひと言になるはずではなかったのに。
「……私は、エレンのこと……」
「それでいい。お前はエレンを好きなままでいい」
勿論、わかっている。
どうしたってこいつがエレン以外を好きになるなんて有り得ないって。
「形だけで……いいからよ」
忘れろ、とは言わない。
ただ、ほんの少しでいいからオレの気持ちを受け取って欲しかった。
訓練兵のときからずっと変わらなかった、この気持ちを。
「……わかった」
拍子抜けするほど簡単に、ミカサは頷いた。
もしかしたら意味が分かってないのではとも思い、何度も確認する。
本当にいいんだな、と。
その度に彼女は頷いて、最終的にはもういい加減わかったでしょと言われてしまった。
「……ありがとな、ミカサ」
「……?」
そして、最後にエレンの方を向く。
「いいか死に急ぎ野郎!ミカサはオレが絶対幸せにするからな!!あの世で指でも咥えて見てやがれ!!」
これが神様に誓う代わりだ。
病める時も健やかなる時も。
お前が出来なかった分、オレがずっとミカサと一緒にいる。
いつかオレがそっちに行く時まで、せいぜい悔しがっていればいい。
そうやって、オレは見せつけるようにミカサの手を握った。
困ったように眉尻を下げられたけれど、今更気にしない。
オレたちはもう、自由な明日へと歩み出したのだから。
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