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その他

出張の仕事だよと社長に言われて、電車をいくつも乗り継いでやって来たのは、ライデンから遠く離れた長閑な田舎町。
柔らかい陽射しと小鳥のさえずりを背に、ゆっくりと扉を叩く。

「お客様のお望みならば、どんな所でも駆けつけます。」

自動手記人形サービス、ヴァイオレット・エバーガーデンです。
いつもの如くそう告げて、丁寧に頭を下げる。
どうぞと促す声が響いて、そっと中に招かれる。

「久しぶりだね、ヴァイオレット。」

ぽかぽかと暖かい光を受けながら、読んでいたであろう本をぱたりと閉じる。
ヴァイオレットには、その姿には見覚えがあった。
否、忘れるはずがない。
持っていた鞄ががたんと大きな音を立てて床に落ちる。

「しょう・・・さ・・・」

それだけ言葉にするのがやっとだった。
どうして、なぜ、そんな風に色々な感情が頭の中を駆け巡る。
同時に、嬉しい、会いたかったという想いも溢れて、視界が涙で歪んだ。

「ご無事・・・だったのですね・・・」

震える声音を必死に抑えようとするけれど、溢れた気持ちに呼応するように嗚咽が止まらない。
崩れるように座り込んでしまったヴァイオレット咎めるでもなく、ただただギルベルトは優しい笑顔のままそっと頭を撫でてくれた。




ひとしきり泣きじゃくり、それも落ち着いた頃。
ようやく本題に入るように、手紙の代筆を始めることになった。
ヴァイオレットの機械の手が、カタカタとリズムを奏でながら文字を紡いでいく。
ギルベルトは、何も言わなかった。
手袋の下から機械の手が出て来た瞬間は少し心を痛めたような表情をしたけれど。
しばらくして、出来上がった手紙をヴァイオレットが差し出す。

「こちらで、いかがでしょうか。」
受け取った手紙を読んで、彼はくすりと笑みを零した。
どこかおかしな所があったのでしょうかと不安気なヴァイオレットに、そうではないよと首を横に振る。

「報告書も拙かったあのヴァイオレットが、こんなに素敵な手紙を書けるようになったのかと思ってね。」
「たくさん、教えていただきました。今まで出会った方々に・・・」

誇らしげに語る彼女の言葉には、本当にたくさんの名前が出てくる。
ギルベルトも知っている名前から、知らない名前も。

「いっぱい、頑張ったんだな。」
「はい・・・!」

ヴァイオレットは力強く頷いた。
そこへもうひとつ、質問を投げかける。
いま、幸せか?と。
今度は黙って、彼女はゆっくりと頷いた。

「ヴァイオレット、おいで。」

不思議そうな表情のままのヴァイオレットを、ギルベルトは待ちきれないと言わんばかりに腕を伸ばして抱きしめた。
苦しいです、と彼女が困ったような表情になるのもお構いなしで。
そして、ヴァイオレットの耳元で確かに告げた。
何度も何度も。

愛してる、を。

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