このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

勿忘草

「だーかーらー!」

むぅ、と頬を膨らませて藤堂さんはじとりとわたしを見てくる。

「俺ら付き合ってんのに、名前で呼ばないのおかしいだろ?!」
「……そう、なんです、けど……」

ごもっともすぎて、なんの反論もできない。
とはいえ。
わたしが新選組にお世話になっていた時は
この関係を公には出来ないからと
徹底して藤堂さんと呼んできた。
ずっとそんな生活をしていたのだから、
今更そう簡単にさんはいっ、と変えられるものでもない。

「俺は名前呼んでるのに?」
「そ、それは……」

この心境をどう説明すればいいのかわからず
ただ俯くしか出来ない。
すると、目の前の彼は盛大にため息をついた。

「そんなに、嫌?」
「ちがっ……!ちがいますっ!!」

呼びたくないはずがない。
大切な人の名前だもの。
よくわからない照れと羞恥心が邪魔をして、
口がうまく動いてくれないのだ。

「……じゃぁ、練習しよう。」
「れん……しゅう?」
「そ。俺の名前、ひとつずつゆっくり言ってみ。」

それなら、大丈夫かもしれない。
すぅ、と深呼吸をひとつして。

「……へ、い……す、け…………さん。」

すごく、すごく緊張した。
名前ひとつ呼ぶだけなのに。

「……もーいっかい。」
「えっ?!」
「いいから、もーいっかい!今度はゆっくりじゃなくて!」

期待の眼差しを一身に受け、
できませんとは絶対に言えない状況に迫られている。

「……わ、わかりました!」
「はい、どーぞ。」

腹をくくって、真正面に彼を見据えてその名前をちゃんと声に乗せた。

「……へい、すけさん……平助さんっ」

それには予想外の反応が返ってきて
もうどうしていいか本当にわからない。
今まで見たことないくらい、愛おしそうな眼差しを向けてくるのだから。
そして、同じようにわたしの名前を呼んで
ぎゅっと抱きしめてくれた。
頑張ったご褒美、といって。

1/8ページ
スキ