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勿忘草

ある晴れた日の夕暮れ時。
日々の巡察を終えた隊士たちが屯所へと帰還する。
それはあの人も同じで。

「いま戻ったぞー」
「はーい、おかえりなさい。」

玄関口まで出迎えると、ちょうど他の隊士たちに指示を出し終えた藤堂さんが、にこやかにこちらへ駆け寄ってくる。

「夕餉の支度も出来てますから、すぐ広間に用意しますね。」
「おー助かる!あ、でもその前に‥‥」

ちょっとこっち来て。
不意に彼は人目を避けるように、屯所の一番目立ったない場所へ私を案内した。
正しくは連れ込まれた、というべきか。

「あの‥‥とうど、さ‥‥?!」

わたしが尋ねるより速く抱きしめられ、
そのまま為すすべもなく唇が重ねられる。
逃げようにも腕力では勝てるはずもないし、
背後はそれに追い打ちをかけるように、壁だ。

「‥‥声、我慢して。」

耳元に抜ける声が、優しくて甘い。
そんな風に言われたら、抵抗なんて出来ない。

「お前、顔真っ赤。ほんと可愛いな。」

最早自力で立つことも出来なくなってしまって
彼の腕の中で支えられながらがやっとだ
それなのに、とどめを刺すように
頬にまたひとつ。
甘くて優しい口づけが降ってきて。

「一番にお前の可愛い顔見れてよかった。」

彼はたいそうご満悦。
これからわたしは夕餉の支度を広間に用意しないといけないのに。
どんな顔をしていけばいいのだろう。

「もう‥‥藤堂さんの‥‥ばか‥‥」
「褒め言葉として、もらっとくよ。」

続きはまた今夜、な。
彼の唇が三日月の型に歪んだのを、わたしは見逃さなかった。
恥ずかしさでいっぱいのはずなのに
どこかでそれを嬉しいと感じているわたしもいる。

だって、大好きだから。



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