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勿忘草

こんなの、分かりきっていたはずなのに
どうしてこんなに
心がざわつくんだろう


彼女を連れた江戸への出張から戻り
いつもの日々が戻ってきたことを実感し始めた頃

「こっちの帳簿、手伝ってくれ!」
「はーい!」
「こっちのも頼む!」
「はい!ただいま!」

下女としての仕事もこなしつつ
新たに帳簿の仕事も任され始めた彼女
他の隊士とも関わる機会が増えて
今まで以上にくるくると忙しそうに屯所の中を駆け回っている

(‥‥俺との時間は‥‥減ってばかりだ‥‥)

子どもじみたわがままなのは百も承知だ
けれど、いかに内密な関係とはいえ恋仲なのは他でもない
自分自身なのに
ついに我慢が限界を超えて
隊長命令という職権を最大限活用し
彼女を部屋に呼び出すことに成功した

「藤堂さん?お話というのは‥‥っ?!」

部屋に入ってくるなり
その細腕を掴んで抱き寄せ
腕の中に閉じ込めた

「忙しいとこ悪いな。でも‥‥来てくれてありがとう。」
「え‥‥?」
「うん、わかんなくていいよ。」

状況整理の出来ていない彼女は
頭上にたくさんの疑問符を浮かべて
目をぱちくりさせている
たったそれだけのことなのに
愛おしくてたまらない

「ちょっとだけ‥‥俺にお前の時間ちょうだい。」

有無を言わさずに
そのまま唇を重ねれば
最初こそ動揺で身じろぎしていた彼女だけれど
次第に抵抗をやめて
こちらの想いに応えてくれるようになる

「とう、どう‥‥さん‥‥」
「声出すなって。誰かに聞かれたら困るだろ?」

本当は彼女のこんなに可愛らしい声を
他の隊士に聞かせたくないだけなのだけれど
時には嘘も必要だ

「お前が傍にいないのは‥‥やっぱり淋しいよ。」

何度も何度も
角度を変えては貪るように彼女との口づけに没頭する
時折首筋にもそれを落とし
所有の印を刻みつける

「お前は俺だけのもの‥‥だからな。」

その言葉に彼女が小さく頷いた
身じろぎのひとつだったのかもしれないけれど
それでも
確かに心は繋がっていると思えた

「‥‥ありがとう。愛してる。」


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