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勿忘草

「春になったら、桜を見にいこう。」

約束を交わしたのは、そう遠くない昨日だった。
春に彼が新選組の屯所から出ていって、しばらく経って。
気がつけば秋の足音がすぐ近くまで迫っていた頃だ。
新選組と御稜衛士の間には、関わってはいけないという盟約があったから、
隊士ではない私も例外ではなく、
文のやりとりすら禁じられていた。

そんな危険な状況の中、彼が上手く手引きしてくれて
私たちはなんとか、数か月ぶりの逢瀬をこぎつけた。
ほんのわずかな時間だったけれど。
抱きしめられたぬくもりも、唇の温度も。
まだ鮮明に覚えている。

別れ際、どうしても離れる踏ん切りがつかなかった私に、
彼は優しい微笑みと共に約束してくれた。

「約束、な。」

最後に抱きしめて、もう一度唇を重ねて。
その約束を胸に、次の春を待とうと思っていたのに。

「……平助さん!!平助さん!!!」

彼は今、どこを斬られたのかもわからないくらい血で染まって
私の腕の中でぐったりしている。
どうして?
どうしてこうなってしまったの?
平助さんが何をしたというの?

「おねがい……だから……いかないで……!」

泣きじゃくる私に、いつもと変わらない笑顔を向けてくれるのに。
途切れ途切れに紡がれる言葉が、徐々に小さく弱くなっていく。

「うそ……つき……!やくそく……したじゃないですか……!!」

血にまみれた手を強く握って、何度も何度も名前を呼ぶ。

「……ごめん、な……やく、そく……」
「平助さん……!おねがい……ひとりに……しないで……!」

まだ伝えたいことがたくさんあるのに。
大好きも、愛してるも、私から全然伝えられてないのに。
そんな私の願いも虚しく。
静かに彼の命の灯は消えていった。
















平助さん。
あなたと約束した春が来ました。
満開に咲いた桜が、とてもきれいです。

「……平助さん……」

あなたと一緒に見たかったです。
今年も、来年も、その先もずっと。

「なに泣きそうな顔してんだよ。」
「……え?」
「俺は、ここにいる。」

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