勿忘草
隊士募集のために赴いた江戸を発って半月が過ぎた。
平穏な日々は、まだ続いている。
彼女と過ごすこの幸せな日々が、あとどれだけ残されているんだろう。
「今日はこの辺りで宿を取るか。」
日も暮れてきたことだし、と手ごろな旅籠ののれんをくぐる。
案内された部屋で荷を下ろし、腰を落ち着ける。
「ん?どうした?なんでそんな端で固まってるんだよ。」
自分の荷物を握りしめたまま、険しい顔をしている彼女。
要するに、今回の目論見が露見したということか。
「……聞いてません、こんなの。」
「なにが?」
「部屋がひとつなんて!!聞いてません!」
「仕方ないだろ?一つしか用意できないって店の人に言われちまったんだからさ。」
「う……それは……」
ここに来るまでの道中は、いつも彼女と自分用にと二つ部屋を用意してきた。
江戸での最後の夜を思えば、その直後に一つの部屋というのもなんとなく気まずかった。
が、せっかく恋仲になったというのに、いつまでも別々というのもなんだか勿体ない。
「と、いうわけだ。諦めろ。」
「うー……」
理解はできるが納得はしていない、といったところか。
このくらいの反応は想定の範囲内だ。
それに、恥ずかしいというのがほとんどの理由だろう。
「いいからこっち、来いよ。」
名前を呼んで手招きすれば、なんだかんだで素直に来てくれる。
そういうところは本当に可愛らしい。
愛おしい、というべきか。
「いつまでそんなむくれてんだよ。」
膝の上に彼女を乗せて、後ろから抱きしめる。
昼間、手を繋ぐことは何度もしたけれど、ここまでの距離で触れるのはあの夜以来だ。
「やっぱお前……安心する。」
肩口に頭を乗せると、彼女はくすぐったそうに少し身をよじる。
微かにこぼれた抜けるような声に、欲望が疼く。
「あの時の……消えかけてるな。」
なぞるように唇を落とせば、一段と高い音を奏でる。
心地よい音色が耳朶を掠め、感情が加速する。
止まらない、止められない。
「今夜は……優しくする。だから……いいか?」
そんな問いかけに、抵抗のひとつくらいはされると思っていた。
が、実際は。
もうすでに潤んだ瞳で袖を強く掴む彼女が、頬を真っ赤に染めて頷いた。
小さくだけれど、確かに。
「……ありがとう。」
強く強く抱きしめて、何度も口づけを落とす。
ありったけの愛を込めて。
平穏な日々は、まだ続いている。
彼女と過ごすこの幸せな日々が、あとどれだけ残されているんだろう。
「今日はこの辺りで宿を取るか。」
日も暮れてきたことだし、と手ごろな旅籠ののれんをくぐる。
案内された部屋で荷を下ろし、腰を落ち着ける。
「ん?どうした?なんでそんな端で固まってるんだよ。」
自分の荷物を握りしめたまま、険しい顔をしている彼女。
要するに、今回の目論見が露見したということか。
「……聞いてません、こんなの。」
「なにが?」
「部屋がひとつなんて!!聞いてません!」
「仕方ないだろ?一つしか用意できないって店の人に言われちまったんだからさ。」
「う……それは……」
ここに来るまでの道中は、いつも彼女と自分用にと二つ部屋を用意してきた。
江戸での最後の夜を思えば、その直後に一つの部屋というのもなんとなく気まずかった。
が、せっかく恋仲になったというのに、いつまでも別々というのもなんだか勿体ない。
「と、いうわけだ。諦めろ。」
「うー……」
理解はできるが納得はしていない、といったところか。
このくらいの反応は想定の範囲内だ。
それに、恥ずかしいというのがほとんどの理由だろう。
「いいからこっち、来いよ。」
名前を呼んで手招きすれば、なんだかんだで素直に来てくれる。
そういうところは本当に可愛らしい。
愛おしい、というべきか。
「いつまでそんなむくれてんだよ。」
膝の上に彼女を乗せて、後ろから抱きしめる。
昼間、手を繋ぐことは何度もしたけれど、ここまでの距離で触れるのはあの夜以来だ。
「やっぱお前……安心する。」
肩口に頭を乗せると、彼女はくすぐったそうに少し身をよじる。
微かにこぼれた抜けるような声に、欲望が疼く。
「あの時の……消えかけてるな。」
なぞるように唇を落とせば、一段と高い音を奏でる。
心地よい音色が耳朶を掠め、感情が加速する。
止まらない、止められない。
「今夜は……優しくする。だから……いいか?」
そんな問いかけに、抵抗のひとつくらいはされると思っていた。
が、実際は。
もうすでに潤んだ瞳で袖を強く掴む彼女が、頬を真っ赤に染めて頷いた。
小さくだけれど、確かに。
「……ありがとう。」
強く強く抱きしめて、何度も口づけを落とす。
ありったけの愛を込めて。