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刀剣乱舞

「今戻ったぞ。」

主から遠征部隊長を任されていた俺は、審神者の執務室の障子越しに声をかける。
普段ならそれだけ済ませてさっさと退散するところなのだが。

「お疲れ様。怪我してる人はいる?」

障子を開けて、彼女が顔を出してくる。
そこでようやく、あぁ帰って来た心地になる。

「いや、今日は無傷だ。」
「よかった……。なら、ゆっくり休んでね。」
「あぁ……。持って帰って来た資材は工房の方に運んである。後で確認してくれ。」

ただいつも通り報告をするだけのに、心臓が爆発しそうだ。
懐に隠したものに、どうしても意識が向いてしまう。
さっさと渡してしまいたい。

「……そ、それから……これを、主に。」
「なぁに?」

刀である俺がこんなことをする日が来るとは夢にも思っていなかった。
半ば強引に、懐のそれを主の手に押し付ける。

「え……?これ、簪?わたしに?」
「こ、この前、菓子をくれただろう。その……礼だ。」

とはいえ、やはり主はぽかんと口を開けて、受け取ったまま固まっている。
こういうのは迷惑だったのだろうか。

「……い、いらなければさっさと捨てればいい。どうせ、俺みたいな写しの刀からもらったものなんて、大した価値も……」
「違うよ!嬉しいの!すっごく!」

大事そうに俺からの簪をぎゅっと胸の前に握りしめ、満面の笑みを主は浮かべている。
そこまで喜んでもらえるとは思わなかった。
予想外の笑顔に、顔に熱がこみ上げてくる。
心臓もさっきより激しく早鐘を打ってくる。
このままだと爆発してしまいそうだ。

「ありがとう、山姥切。」
「あ、あぁ……」

困った、主の顔がまともに見られない。
早くこの場から離れないと、もう心臓がもちそうにない。

どうしてこんなに動揺しているのだろう。
不思議と、嫌な感じはしないが。
この気持ちの答えに、いつか辿りつけるのだろうか。

その時も、彼女がそこにいてくれたらいい。
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