ヒカルの碁
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数年付き合った彼氏に、いよいよフラれた。
好きだったかと言われれば、よくわからない。
お互いに利害の一致で付き合っているという体裁を作っているようなものだった。
なんとなく埋まらない心の隙間を埋め合うような。
傷の舐め合いをするような。
都合のいい時だけ連絡を取って、ホテルでそのまま一夜を共にする。
それだけの、薄っぺらい関係に今日、ようやく終止符を打たれた。
「やっぱ飽きたわ。他に女できたし」
それが男の最後の言葉だった。
別に悲しくはないけど、それでも心が少しすり減った。
これからどうやってこの空いた隙間を埋めればいいんだろう。
辿った帰路の記憶さえ曖昧なまま、気がつけば自宅の前に立っていた。
あぁ、人ってこんな時でもちゃんと家に帰れるようにできているんだなぁなんてぼんやりと考えながら、
がさがさとカバンの中の鍵を探していると、突然その手をぐっと掴まれる。
びっくりして顔を上げると、いつになく真剣な表情の慎一郎がいた。
「……ちょっ、と……離してよ」
「泣きそうな顔してるのに、ほっとけないだろ」
気のせいでしょと振り払いたいのに、図星をつかれたせいで視線を逸らすことしか出来ない。
なんでこんな時ばっかり鋭いのよ。
無自覚王子のくせに。
「……だいたい、誰のせいでこんな……!」
惨めな気持ちになってると思ってるのよ。
そう言いかけて、やめた。
いや、言えなかった。
言葉にしてしまったら、ぐっと蓋をして見ないふりしてきた気持ちを認めてしまうような気がしたから。
「……好きじゃないなら……優しくしないでよ……」
それだけ吐き捨てて、手を振り払いたいたかった。
実際何度もぶんぶん振って抵抗したのに、慎一郎は離してくれなかった。
「千颯だって、オレの気持ち知らないだろ?」
「知らないわよ……!どうせただの幼馴染みとしか……」
「お前こそ気づけ、ばか」
いつになく乱暴な言葉をぶつけられて、思考が停止する。
……どういうこと?
慎一郎にとって、わたしはただの幼馴染みじゃないの?
「千颯以外、好きにならない」
思考回路が、完全に停止した。
この人は何を言ってるんだろう。
それじゃぁまるで、慎一郎がわたしのことを好きだって言ってるみたいじゃない。
「……ちょっ、と……」
「ずっと……子どもの頃からずっと、お前のことが好きだよ」
幼馴染みとしてじゃなく、一人の女の子として。
そんな風に言うなんて、ずるい。
嬉しいって……思ってしまう。
「なっ、なに言ってるの……?」
今までそんな素振り微塵も見せなかったくせに。
何よりも碁が大事で、誰にも相談しないで勝手に中国まで行ったくせに。
わたしのことなんて見向きもしないと思っていたのに。
だから諦めて他の人と付き合ったのに。
「……遅いよ、ばか……」
わたしはもう慎一郎が思ってるような女の子じゃない。
淋しさを紛らわせてくれるなら誰だっていいと、よく知りもしない男にも身体を許すような汚い女になってしまった。
「わたしだって……ずっと、好き……」
想いと共に溢れた涙で言葉にならない。
そのまま泣き崩れたわたしを、彼はそっと抱きしめてくれた。
どれだけ欲しくても手に入らなかったぬくもりに包まれて、
これまで必死で堰き止めていた気持ちがついに決壊してしまった。
どれだけ泣いて喚いたのだろう。
気づいたらわたしは慎一郎の家のソファに座って、あたたかいカフェオレを啜っていた。
人目を憚って、彼が家の中に連れてきてくれたらしい。
「やっと落ち着いたか」
「……いろいろ、ごめん」
「それはお互い様だから、気にするなって」
自分用に淹れた珈琲片手に、慎一郎も隣に腰を下ろす。
何とは無しに腕を回されて抱き寄せられるので、素直に彼の肩に頭を預けた。
「……わたしのこと、幻滅したでしょ」
「意外だなとは思ったけど、そこまでじゃないかな」
どうやらわたしの友人経由で、現状の有様はなんとなく知っていたらしい。
この荒んだ生活をどうにかしてくれと相談されたんだとか。
それで様子見がてらわたしの家にやってきたところで、運良くなのか悪くなのか遭遇したというのが経緯だと話してくれた。
「俺も……千颯が思ってるような良い奴じゃないよ」
「真面目を絵に描いたような人が何言ってんの」
「だから、そうじゃないって」
不意にわたしから飲みかけのカップを取り上げると、そのままソファに押し倒されてキスされた。
「煙草だって吸うし、千颯のこと今すぐにでも抱きたいって思ってる」
「そんなこと言うようになったんだ」
「まぁ、いろいろあったからな」
「……そっか」
こんなわたしでも受け入れてくれることが、これ以上ない安堵だった。
無意識に表情が緩んで、お返しとでも言うようにわたしからも唇を重ねた。
それが何かの合図になったような、引き金を引いてしまったような。
決して広くは無い二人掛けのソファに寝転んで、数えきれないほどのキスをした。
ふざけて遊ぶようなそれに始まって、だんだん熱を帯びていく。
呼吸も、言葉も、何もかもが一つになるようなその行為は、今までで一番満たされた気持ちになった。
ぽっかり心に空いた大きな穴は、いつの間にか跡形もなく塞がっていた。
好きだったかと言われれば、よくわからない。
お互いに利害の一致で付き合っているという体裁を作っているようなものだった。
なんとなく埋まらない心の隙間を埋め合うような。
傷の舐め合いをするような。
都合のいい時だけ連絡を取って、ホテルでそのまま一夜を共にする。
それだけの、薄っぺらい関係に今日、ようやく終止符を打たれた。
「やっぱ飽きたわ。他に女できたし」
それが男の最後の言葉だった。
別に悲しくはないけど、それでも心が少しすり減った。
これからどうやってこの空いた隙間を埋めればいいんだろう。
辿った帰路の記憶さえ曖昧なまま、気がつけば自宅の前に立っていた。
あぁ、人ってこんな時でもちゃんと家に帰れるようにできているんだなぁなんてぼんやりと考えながら、
がさがさとカバンの中の鍵を探していると、突然その手をぐっと掴まれる。
びっくりして顔を上げると、いつになく真剣な表情の慎一郎がいた。
「……ちょっ、と……離してよ」
「泣きそうな顔してるのに、ほっとけないだろ」
気のせいでしょと振り払いたいのに、図星をつかれたせいで視線を逸らすことしか出来ない。
なんでこんな時ばっかり鋭いのよ。
無自覚王子のくせに。
「……だいたい、誰のせいでこんな……!」
惨めな気持ちになってると思ってるのよ。
そう言いかけて、やめた。
いや、言えなかった。
言葉にしてしまったら、ぐっと蓋をして見ないふりしてきた気持ちを認めてしまうような気がしたから。
「……好きじゃないなら……優しくしないでよ……」
それだけ吐き捨てて、手を振り払いたいたかった。
実際何度もぶんぶん振って抵抗したのに、慎一郎は離してくれなかった。
「千颯だって、オレの気持ち知らないだろ?」
「知らないわよ……!どうせただの幼馴染みとしか……」
「お前こそ気づけ、ばか」
いつになく乱暴な言葉をぶつけられて、思考が停止する。
……どういうこと?
慎一郎にとって、わたしはただの幼馴染みじゃないの?
「千颯以外、好きにならない」
思考回路が、完全に停止した。
この人は何を言ってるんだろう。
それじゃぁまるで、慎一郎がわたしのことを好きだって言ってるみたいじゃない。
「……ちょっ、と……」
「ずっと……子どもの頃からずっと、お前のことが好きだよ」
幼馴染みとしてじゃなく、一人の女の子として。
そんな風に言うなんて、ずるい。
嬉しいって……思ってしまう。
「なっ、なに言ってるの……?」
今までそんな素振り微塵も見せなかったくせに。
何よりも碁が大事で、誰にも相談しないで勝手に中国まで行ったくせに。
わたしのことなんて見向きもしないと思っていたのに。
だから諦めて他の人と付き合ったのに。
「……遅いよ、ばか……」
わたしはもう慎一郎が思ってるような女の子じゃない。
淋しさを紛らわせてくれるなら誰だっていいと、よく知りもしない男にも身体を許すような汚い女になってしまった。
「わたしだって……ずっと、好き……」
想いと共に溢れた涙で言葉にならない。
そのまま泣き崩れたわたしを、彼はそっと抱きしめてくれた。
どれだけ欲しくても手に入らなかったぬくもりに包まれて、
これまで必死で堰き止めていた気持ちがついに決壊してしまった。
どれだけ泣いて喚いたのだろう。
気づいたらわたしは慎一郎の家のソファに座って、あたたかいカフェオレを啜っていた。
人目を憚って、彼が家の中に連れてきてくれたらしい。
「やっと落ち着いたか」
「……いろいろ、ごめん」
「それはお互い様だから、気にするなって」
自分用に淹れた珈琲片手に、慎一郎も隣に腰を下ろす。
何とは無しに腕を回されて抱き寄せられるので、素直に彼の肩に頭を預けた。
「……わたしのこと、幻滅したでしょ」
「意外だなとは思ったけど、そこまでじゃないかな」
どうやらわたしの友人経由で、現状の有様はなんとなく知っていたらしい。
この荒んだ生活をどうにかしてくれと相談されたんだとか。
それで様子見がてらわたしの家にやってきたところで、運良くなのか悪くなのか遭遇したというのが経緯だと話してくれた。
「俺も……千颯が思ってるような良い奴じゃないよ」
「真面目を絵に描いたような人が何言ってんの」
「だから、そうじゃないって」
不意にわたしから飲みかけのカップを取り上げると、そのままソファに押し倒されてキスされた。
「煙草だって吸うし、千颯のこと今すぐにでも抱きたいって思ってる」
「そんなこと言うようになったんだ」
「まぁ、いろいろあったからな」
「……そっか」
こんなわたしでも受け入れてくれることが、これ以上ない安堵だった。
無意識に表情が緩んで、お返しとでも言うようにわたしからも唇を重ねた。
それが何かの合図になったような、引き金を引いてしまったような。
決して広くは無い二人掛けのソファに寝転んで、数えきれないほどのキスをした。
ふざけて遊ぶようなそれに始まって、だんだん熱を帯びていく。
呼吸も、言葉も、何もかもが一つになるようなその行為は、今までで一番満たされた気持ちになった。
ぽっかり心に空いた大きな穴は、いつの間にか跡形もなく塞がっていた。
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