自分はいつからこんなに独占欲が強くなったのだろう。

ソファに体育座りで、最近買ったという本を夢中で読み耽っているひよりが、
返事ひとつしてくれないことに心がひどくざわついている。
いつもなら、オレが家に帰れば玄関先までぱたぱたと軽い足音を立てて出迎えてくれるのに。
今日はそれすらもしてくれなかった。
ただいまの声も届いていないらしい。
無意識に奥歯をぎりっと噛み締めた。
わざと目の前でばさりと鞄を落とし、彼女が持っていた文庫本を半ば強引に取り上げた。

「ほわぁぁぁぁぁ？！」
「ただいま」

必要以上の笑顔を貼り付けて見せるが、驚きのあまり瞳を瞬かせて口をあんぐり開いている。
あぁ、やっとこっち見てくれた。

「あ･･････慎一郎さん、おかえり、なさい･･････」
「何度か声かけたけど、気づかなかったみたいだから」
「えっ･･････あ、ごめんなさい･･････」

未だ力のこもらない声に、驚かせすぎたかとほんの少しだけ反省する。
文庫本を返せば慌ててひよりはしおりを挟む。
それを見計らって、そのまま腕の中に閉じ込める。
ふわりと彼女が気に入っている香水の匂いが鼻孔をくすぐった。
ごくりと喉を鳴らして、悪戯をするようにひよりの首筋を舐めた。

「ひゃぁっ？！」
「ここ、相変わらず弱いな」

いちいち反応するところが愛おしくてたまらない。
ぶぅっと膨らませた頬をつんと突いて空気を抜いてやり、
一瞬だけできた隙を狙って自分の唇を彼女のそれへと押しつけた。

千颯はオレの彼女なのだから。
オレのことだけ見ていればいいんだ。