家に帰ると、酷く疲弊して青白い顔をした千颯が、
ソファにぐったりと横たわっていた。

「どうした？大丈夫か？」

具合でも悪いのかと、頭を撫でてやりながら表情を窺うと、
頬にはうっすら涙の痕が残っていた。
これはただ事ではない。
自身もソファに並んで座り、彼女をそっと膝の上に乗せる。
ぎゅっと抱きしめれば、首に腕を回して抱きついてくる。

「何かあったのか？」

黙ったまま、首を横に振る。
言いたくない、ということか。
なんでも話したがりの千颯がここまで頑なになるのは珍しい。
それほど傷つくことがあったのならば力になってやりたいものだが、
碁の世界とは全くの無関係な世界に身を置く彼女にしてやれることなど皆目見当もつかない。
唯一してやれるのは、こうして抱きしめてやることだけ。
子どもをあやすように、鼓動と同じ速度でとんとんと背中を叩いてやると、
千颯の方がひくひく震え始めた。
次第に溢れてくる嗚咽。

「・・・我慢しなくていいよ、大丈夫」

辛いことは全部、吐き出してしまえばいい。
何があっても、オレは味方だから。
千颯の笑顔が戻るまで傍に寄り添おう。

そして、また元気になったら。
彼女が行きたがっていたあのパンケーキを食べに行こう。