＜宝物はすぐそばに＞

こうまでして生活はすれ違うものなのかと苦虫を噛み潰したような表情になるくらい、最近は彼女と顔を合わせていない。
同じ家に住んでいるというのに。

「やっぱり、寝てるよな・・・」

今日も対局とその感想戦を終えて家に着いたのは、夜もだいぶ深い時間になった頃。
早々に明日の予定を確認して寝なければと思考する。

「あ……。」

ふと、ダイニングテーブルに置かれたおにぎりとメモに視線が落ちた。
思えば、遅く帰る日には必ずといっていいくらい、何かしらの夜食が用意されていた。

『お疲れ様です。良ければ食べてください。』

柔らかな千颯の筆跡で書かれたメモと一緒に。
何気ない気遣いに、どうして今まで気がつかなかったんだろう。
当たり前だと思ってしまっていたんだろう。
そんな自分の横っ面を殴り飛ばしてやりたくなった。

「・・・いただきます。」

きちんと味わって食べよう。
テーブルについて、両手を合わせる。
そして、完食。
最後に、ちょっと下手くそな字で彼女からのメモに一言追加する。

”ありがとう　ごちそうさまでした”